四十六日目






ぶえっくしゅん、となんだか男前なくしゃみの音がした。それはリビングに大きく響いてしまって、近くにいた紫原はらしくなくびくりと肩を震わせてしまう。

「…ずびばぜん」

おおきなくしゃみをした張本人である黒子は申し訳なさそうに頭を下げるのだが、まだ鼻がむずむずするのか、しきりにティッシュで鼻をかんでいた。

「なになに、黒ちん風邪ー?」
「いえ、花粉症で…最近花粉がひどくていけないです」

そういえば今日は緑間が窓を開けて丁寧に部屋の掃除をしていた。その時に花粉が少なからず室内に入り込んでしまっていたのだろう。黒子は最近ぴったりと顎や頬のラインに沿うかたちをした仰々しいマスクをかけていることが多かったが、室内は油断していたらしい。目の周りも少し赤らんでいて、痛々しかった。

「俺は花粉症とかわかんないなーなになに、やっぱ鼻水とかひどいの?」
「…そう、ですね…それも酷いんですが、それより頭がぼーっとしたり、目の周りが痒くなったりするのが辛いです。ひどいと熱が出たりしますし…もう、いろんなとこが痒くて痒くて、眼球えぐり出してタワシでガシガシ洗いたくなります」
「…わぁ…辛いねぇ…」

紫原は想像してしまったのか、さくさくとお菓子を食べる手を止めてしまった。

「なんだかもう年々ひどくなっていっているような気がして…」
「病院とか行ってもだめなの?」
「薬はもらえますが、あんまり効果があるかんじはしないです。むしろ眠くなってしまうので、あまり…」
「ヨーグルト食べるといいって聞くけど」
「都市伝説らしいです」
「鼻うがいとかは?」
「やってもやってもなかなか…」
「うーん…大変だねぇ」

そうして、紫原は少し考えてから、大きな手のひらを黒子の目のあたりに被せて、「かゆいのかゆいのとんでけー」と言って、ぱっと手を離した。黒子は驚いて目を丸くしてしまう。

「…なーんて。こんなんで治ったら苦労しないよね」

紫原は「お菓子食べる?」と黒子にスナック菓子の袋を差し出してきた。黒子はしばらく呆然としていたのだけれど、少ししてから、くすりと笑った。

「なんだか少し楽になったような気がします」
「うそー」
「ほんとです。ありがとうございます」
「なになに、俺魔法使えちゃう系ー?」
「そうかもしれません」

くすくすと黒子は笑って、ひとかけら、スナック菓子をさくりと口に入れた。なんだか甘くてしょっぱくて、不思議な味がする。


END


リクエスト頂いてた「黒子が花粉症な話」でした!
黒子と紫原だけの話になってしまいましたが、リクエストありがとうございました!


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