四十五日目




※モブが出てきます



緑間は最近なんだか知らない男が家の周りをうろうろしてることになんとなく不快感を持っていた。それは毎日のようで、さらには同じ人物のようだった。少々騒がしいときもあるのだが、近所迷惑になるようなこともしていないというのに、いったいどうしたことだろうと。緑間がその男に一度「何をしているのだよ」と話しかけたことがあったのだが、その男は何も答えず、そそくさとその場を立ち去ってしまった。なんだか気味が悪い。赤司にでも相談すべきだろうか、なんてことを考えていて、ふと、赤司は気づいていないのだろうか、と疑問に思った。これだけあからさまなのだから気づいていてもおかしくはない。しかし気づいていたなら何かしらのアクションは起こすだろうし、黙っているわけがないのだ。そうしてなんとなく考えを巡らしてみたところで、はたと思い当たるふしがあった。緑間の帰宅する時間は大抵黄瀬と重なることが多いのだ。時間割的にそうなっているし、一緒に帰ることはしなくても、帰宅の時間帯はだいたい同じになっている。逆に赤司はほとんどかぶらない。もしかしたら、と思い、なんとなく黄瀬の様子を伺ってみるとやはり何かおかしい。なんだかいつもより不安げな顔でいることが多いし、周りにいつもよりずっと気を使っている。ああ、きっとそうなのだろうなぁと思ってしまうと、なんだか黄瀬がかわいそうになってきていけなかった。

「おい、最近元気がないが、なにかあったのか?」

緑間がキッチンで二人きりになったのを見計らって、黄瀬にそう切り出した。すると黄瀬は一度はほんとうのことを言おうとしたらしい口を一旦閉じて、そうしてから、変なふうに口を歪めてしまった。

「いや、最近なんかちょっと課題とか仕事とかかさなっちゃって…」
「…嘘をつくな。不愉快なのだよ」
「え、と、」
「俺が気づかないとでも思っていたのか。まったく、あれだけあからさまならば誰だって気づくだろうに」

緑間が溜息をつくと、黄瀬は「ああ、やっぱり緑間っちには隠し事できないっすね」と、少しだけ泣きそうな顔になった。

「いつからなのだよ」
「…わりと、前からっす。でも家までくるようになったのはほんと最近で…。前までは仕事場で待ち伏せされたりとか、大学でやたら見かけたりとかだけだったんすけど…。それで俺、まわりみちとかしてなるだけこの家だけはつきとめられないようにしてたんすけど、ほんと、みんなに申し訳なくて…」
「お前が悪いわけではないだろう。それにしても男に追い掛け回されるとは…」
「いやー女の子ならなんとでもできるんすけど、男はどうしたらいいかわかんなくて」

黄瀬がなんだか無理に明るい声音を作るので、緑間の眉間にはじりじりと皺がよってしまう。

「警察には行ったのか」
「いや、行けないっすよ…さすがにスキャンダルになるのも怖いし、なにより男にストーキングされるって…ゴシップネタはちょっと…」
「…まぁ、わからなくもないが。大丈夫なのか?何か危害を加えられたりだとか、ものを盗まれたりだとか」
「まぁ私物のひとつふたつくらいは慣れてるからいいんすけど、こないだ一人きりになったとこで話しかけられて、暗がりに連れ込まれそうになったんで全力で振り切って逃げてきたっす」
「おい…十分危害をくわえられているのだよ、それは」
「はは…もうなんか慣れたっていうか…」
「そんなことに慣れる必要はないし、慣れるべきではないのだよ。とにかく、なるだけ一人にはならないようにするのだよ。帰りは俺ができるだけつくようにするし、他のメンバーにもちゃんと困っているなら相談するべきなのだよ」

緑間がそういうと、黄瀬は少し不安げな顔になって俯いてしまった。こうしてみると本当に綺麗な顔立ちをしている。男でもともすれば見惚れてしまいそうな仕草を、黄瀬は無意識にしていることがあるのだ。ストーカーがつくのも頷ける。それを許せるかどうかはまた別の話なのだが。

「迷惑じゃないっすか…」
「なに」
「だって、俺のせいで、俺の責任でみんなのプライバシーとかまで犯されてるとしたらもう…俺、この家にいられなくなるかもしれないって、思ったりとかして…それで、怖くて、なかなか言い出せなくて…でもストーカー行為はどんどんエスカレートしてくし、もうどうしていいかわかんなくて…」

そんなことを考えていたのか、と緑間は目を丸くした。黄瀬は誰よりも先に社会というものを知っているから、責任だとか、迷惑だとか、そういうことが自分よりも先に出てしまうらしかった。たしかに社会で生きていくには、それもより人間関係が難しい芸能界で生き残っていくには大切な考え方かもしれない。けれど、この空間は、この家は、そんなにも冷たい風を吹かせているだろうか。そう思うと、緑間はなんだか情けないような、悲しいような気持ちになった。そう思わせてしまっていることが、どうにも、たまらなく寂しかった。

「お前は、本気でそんなことを思っているのか」
「え、」
「この家に住んでいる連中が、ちょっと迷惑をかけられたくらいでお前を追い出すような連中だと、俺がそんなくだらないことでお前を見捨てるような薄情な人間だと、そう思っているのかと聞いているのだよ」

わずかながら怒りさえ含んだようなその台詞に、ぶわりと黄瀬の目がから何かが吹き出してきた。しかし黄瀬はそれをこぼすことはしないで、たっぷちと目の淵にとどめたまま、ぶんぶんと首を振った。

「そんな、こと思ってないっす!でも、でも、俺が申し訳なくて、たまらなくて!」
「そんなの今更なのだよ。お前の作る料理は基本的に同じメニューだし、掃除も雑だし、うるさいし、コーヒーはやたら消費するし、帰ってくるのは遅いし、迷惑しか被っていないのだよ」

だから、今更それがひとつふえたところでなんとも思わないのだよ。緑間がそういって、ぺたりと黄瀬の綺麗な頬に手を添えると、それに温かいものがぱたぱたと落てきて、ああ、ほんとうにどうしようもないなぁと。こんなになるまで我慢していたのだと思うと、ほんとうにかわいそうで、かわいそうで、たまらなかった。ああなんだか少しだけ、家族になったようだなぁと、思う。こういうふうに少しずつ、迷惑を掛け合って、許しあって、支えあって、だんだんと距離を縮めていきたいと思った。それを思うのが、自分だけでないというのも、ちゃんとわかっていて、それが暖かかった。手を濡らす液体のように。


END


リクエストいただいてた「黄瀬にストーカーがついて緑間がそれに気づく話」でした!
なんだか収集つかなくなってぶっつり切っちゃったかんじになりましたすみません!
いつか続き書きたいです^^
リクエストありがとうございました!



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