route munakata 2
伏見がオフィスに戻ると、ざわついていた空気が一気にしんと静まった。なんだなんだとせっかく上機嫌だった伏見の眉間に皺が寄る。
「んだよ」
とりあえず一番近くにいた日高を捕まえてぎっと睨みつける。日高はあたふたと「いえ、その、なんでもないです」としどろもどろな対応をする。それがまた不審で、伏見はさらに眉間の皺を深くした。
「なんでもねーならなんでこんなざわついてんだよ。しかも俺が帰った途端に静まりやがって。なんだよ、俺に聞かれて困るような話でもしてたのかよ」
「いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあなんなんだよ」
「えっと、伏見さん、呼び出されてからなかなか帰ってこないなーって話をしてたんすよ!なっ!エノ!」
急に話を振られた榎本は「えっ」と驚いた顔になる。それでもすぐに取り繕うあたり榎本だ。
「まぁ、そうです、ね。その…室長のことだからまたなにかにつけて伏見さんに仕事を押し付けてるんじゃないかって。わりと時間をとられていたようですが、大丈夫でした?」
「あ、ああ、まぁ第4小隊ぶんの書類仕事引き受けることになったくらいか。でもその代わり訓練はでなくていいことになった。ほんとうにそれだけか?」
「え、と、そうですね…」
伏見はしばらく疑いの目を解かなかったのだけれど、これ以上問い詰めても誰も口を割りそうになかったので舌打ちをして仕方なく引き下がった。仕事も溜まっているし、これ以上くだらないことに時間をとられたくなかった。伏見が不機嫌な顔でデスクに戻り、少しすると秋山が伏見にコーヒーを差し出した。
「…どうも」
「いえ。それにしても伏見さん、先程は仕事を引き受けただけにしては少々時間がかかっていたようですが…」
「ん?ああ…別に、なんでもない」
なんだか説明するのも面倒だったので伏見が適当にはぐらかすと、秋山がぎょっとしたような顔になる。どうしたんだ、と伏見が眉間の皺を深くすると、「い、いえ、」と歯切れの悪い返事だけしてそそくさと自分のデスクに戻っていってしまった。なんだったんだ、と伏見はコーヒーをすすり、デスクに積まれた書類に手をつけた。
そろそろ定時かという時になり、急に職場内がざわつきはじめた。なんだなんだと伏見が書類から顔を上げてみると、なんだか様子がおかしい。まず淡島の姿が見当たらず、職員の数も少なくなっている。そういえば今日は体調不良を訴える隊員が多かったなぁと思い出すが、それにしても、だ。
「おい、秋山、なんなんだ、ざわついて」
伏見はとりあえず一番近くで困った顔をしていた秋山に声をかける。彼は予防のためだろうマスクをすでに着用していて、オフィス内を見回してみるとそれなりの人数がマスクをつけていた。
「え、あの、なんだか昼過ぎから体調不良を訴える隊員の数がやたら多くて…」
「それは知ってるけど。具体的には」
「特務隊だけで5人です。弁財に加茂に榎本、布施…あと情報班から1人。それで先程淡島副長も医務室に運ばれて…」
「それでざわついてたのか…なに、ストレイン関係か?」
そんな能力のストレインとの接触については報告が来ていないけれど、と伏見が眉をひそめると、秋山がすぐに首を横に振った。
「いえ、街で普通に流行ってる風邪です。でもタチが悪いらしくて。インフルエンザ並みの感染力と高熱が出るそうですよ。ワクチンがないだけにどんどん流行りますし、治りも遅いらしいです。今日までに何人かそれで欠勤になってたんですが、昼頃からなんだかどんどん早退が増えてまして…伏見さんもマスクされますか?俺のありますけど」
「いらねーよ。もうそろそろ定時だろ。俺も上がるし。つーかいい大人が風邪で早退って…中学生じゃあるまいし」
「まぁ、どうしてなんですかね。スーパースプレッダーでもいたんでしょうか」
「はた迷惑な話だっつの」
伏見は明日欠勤するであろう人数を思って舌打ちをした。なんだか面倒なことになりそうだったものだから。
END
日高と道明寺は絶対に風邪とかひかないと思ってる。