27.although it cannot throw away





秋山は部屋に帰るなり、やってしまったと真っ青になり、ベッドに撃沈していた。端末をいじくり、伏見になにかしら声をかけるべきか否かをずっと考え続け、しかし自分のしでかしたことをぐちゃぐちゃと後悔しては打ち込んだ文章を全消去し、かといって何もしないのは、とずっと端末を立ち上げたりスリープにしたりを繰り返した。もう何回目かわからない謝罪文を打ち込み、また消去したあたりに心配したらしい弁財が顔を出した。

「秋山、お前なにそんなに落ち込んでるんだ」
「弁財」

秋山は枕から顔をあげ、たいした理由じゃないから、とわらってみせる。

「…なんでもないよ」
「なんでもない顔をしていないから言ってるんだ。気にかかることがあるなら聴くくらいはするけど。その前になんか飲むか?気分が落ち着く」
「ありがとう。…コーヒーが飲みたいかな」
「砂糖は二つでいいだろ」
「うん」

秋山は引きこもっていてもあれだから、とリビングに顔を出した。そうして、適当にテレビをつけ、ザッピングする。ゴールデンタイムも終わって、少々えげつないバラエティがやっていたけれど、それには目もくれずにお堅いニュース番組にチャンネルを合わせた。弁財は電気ケトルでさっさとお湯を沸かしてしまい、ドリッパーを出した。秋山がインスタントコーヒーを飲まないので、この部屋にあるコーヒーは全てドリップ用だ。秋山はコーヒーが好きで、気分によって銘柄を変える。スーパーに売っている安い豆から、行きつけの専門店の最高級の豆まで、全部で五種類くらいあった。鮮度が落ちそうになってくるとセプター4に持って行って、まだ豆のふくらむうちにみんなにふるまったり、伏見に出したりする。弁財はどうにかして秋山を元気づけようと、高い豆をスプーン一杯、すくった。

すこしするとコーヒーのいい匂いがして、秋山は少しだけ、胸の落ち着く気がした。弁財が二人分のマグカップを持ってリビングに戻ってくると、秋山は礼を言ってそれを受け取った。

「で、なに。どうしたの」
「いや…あんまり詳しくは…言えないんだけど」
「どうせまた伏見さんだろ」
「なんでわかったんだ」
「お前…最近お前が暗い顔してるときは確実に伏見さん絡みなんだよ。そろそろ自覚してくれ」
「そう…なんだ…。そうかも、しれない」

本当に気づいていなかったのか、と弁財はため息を吐き、コーヒーを一口飲んだ。

「そういえば、お前今日の訓練、らしくなかったな」
「え、」
「隙が多くなるような打ち込みしてたろ、最後」
「ああ、見てたのか。恥ずかしいな」
「あのあと、ちらっと見たけど、日高が伏見さんに肩貸して壁際に寄ってたな。あれとなんか関係あんの」
「まぁ、そんなところ」

ほんとうに弁財には隠し事ができないね、と秋山は笑った。そうしてコーヒーを一口飲み、ほっと息を吐き出す。

「伏見さん負傷したっぽかったけど、さすがにそこまではお前の責任じゃないと思うが」
「あ、いや、そういう…ことでは…」
「じゃあなんなんだよ」
「いや、俺今日オフィスに端末忘れたろ。それとりに行ったらオフィスに伏見さんだけ残っててさ、それで、訓練で負傷したとこがちょっと痛むらしくて、医務室に連れてったんだよね…半ば…むりやり…」
「お前たまにすごく強引なとこあるよな」

弁財はどうにも微妙な顔になる。呆れたような、これだから秋山は、という顔だ。

「自分でもなんであんな強引だったのか…なんで怪我したの言ってくれなかったんだろうとか、なんで日高には頼って俺には頼ってくれないんだとか、ぐちゃぐちゃ考えてたら辛く当たっちゃって…部屋まで送ったんだけど伏見さん黙ったきりだったし、俺もなんかしゃべれなかったし、どうしようって。メールかなんかしようとも思ったけどなんかうまくできなくて」
「…それだけか?」
「うん、まぁ」

弁財はくだらない、というふうにため息をついた。秋山にしてみれば大事なのかもしれないがはたからみているとほんとうに「それだけ?」と言いたくなる内容だった。さっさと謝ってお詫びでもなんでもすればいいんじゃないか、という言葉をぐっと飲み込み、「そうか、それは…大変だな」と言う。なんだか女々しい受け答えなのだけれど、この手の話には真面目に打開策を押し付けるより同意をしておいたほうがいいと弁財はちゃんとわかっていた。

「それにしても、お前最近でもないけどよく伏見さんに構うよな」
「…そう、だね」
「さっきの落ち込んでた理由といい、大概にしとけよ」
「まぁ…」
「お前は軽率なやつではないと思っているから、その点は安心なんだが、なにかに夢中になると周りが見えなくなるとこあるから…それだけは気をつけろ」
「…うん」

秋山は少しだけ自分の心の中を探ってみて、そこに自分でもよくわからない部分が存在していることに気がついた。今日はなにかの拍子に溢れ出してしまったのだけれど、秋山はそれに丁寧に丁寧に蓋をした。もう溢れ出してしまうことのないように、丁寧に。そうしてマグカップに残ったコーヒーを飲んでしまおうとしたのだけれど、それはもう随分ぬるくなっていて、砂糖を入れているのに随分苦かった。


END


捨てはしないけれど。


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