三十九日目






「なあ、たまには俺がコーヒーいれてやるよ」

青峰がそんなことを言い出した時、黄瀬は思わず青峰の額にぺたりと手を当てて体温を計った。しかしそれは熱くもなく冷たくもなく至って平熱で、黄瀬はどういった風の吹き回しだろうと首をかしげた。

「どうしたんすか、いきなり」
「だってお前コーヒー好きだろ」
「はぁ…まぁそうっすけど」
「こないだお前のマグカップ割ったし」
「あれは俺も悪かったと…」
「いいからいれさせろ」
「なんすかそれ。ていうか青峰っちコーヒーなんかいれれるんすか。インスタントと違うんすよ」
「馬鹿にしてんのか。それくらいできる」

青峰はキッチンに立つとお湯を沸かしはじめた。青峰がキッチンに立つことは滅多になにので、黄瀬はそれを珍しいものを見る目で眺めた。そんなに大量にお湯沸かさないで必要なぶんだけ沸かせばもっと早いだろうなぁとか、お湯沸かしてる間にドリッパーとか出せば手際いいんだけどなぁとか色々思ったが、なんだか初々しい青峰というのは新鮮で黙ってそれを眺めていた。青峰はお湯が沸く前に思い出したようにドリッパーを棚から出し、少し考えてから思い出したようにペーパーを差し込んだ。けれど何か忘れていると思ったのか、ずっと首をひねっている。

「ペーパー折るの忘れてるっすよ」
「なんだよ、今折ろうと思ってたんだよ」
「はぁ…そうっすか」
「あ、コーヒーどれがいい?」
「ブルーマウンテンブレンドでお願いするっす」
「そうかよ」

青峰は適当にペーパーを織り込んだのだが、どうにも折りすぎている。そのせいかドリッパーからペーパーが浮いてしまっていた。コーヒー豆を入れてしまえばどうにでもなると思ったのか、青峰はスプーンいっぱいのコーヒー豆をそこに落とし込む。少し多いかなぁと黄瀬は思ったが、まぁいいかと。その頃になってケトルがけたたましい音をたてた。青峰はドリッパーに恐る恐るといった調子でお湯を注ぐ。あ、ちゃんと真ん中に注いでる、と黄瀬は微笑ましいような気分になった。ふっくらと豆が膨らんで、甘いような香ばしいようないい匂いがキッチンいっぱいに広がった。

「ほら」
「あれ、青峰っちのぶんは?」
「俺はコーヒー嫌いだからいいんだよ」
「人のコーヒーは奪うくせに」
「それはもういいだろ。ごちゃごちゃうるせーんだよ」
「はぁ、まぁ、いいっすけど」

黄瀬が一口それを飲むと、やっぱり普段より少し苦味が強かった。けれどまぁ美味しかったので、「ちゃんと美味しいっすよ」と言ってあげる。そうすると青峰が照れたような顔をするので、なんだか黄瀬の方まで恥ずかしいような、こそばゆいような気持ちになった。ふんわりと甘いような匂いがして、どうにも調子が狂ってしまう。コーヒーはこんなに苦いのに、不思議なことだ。


END

青峰と黄瀬でコーヒーの話続きです。
なんかいつもと立場逆転してますが、たまにはこんな二人の関係性もいいかなぁと。
リクエストありがとうございました。

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