三十八日目






その日はなんだか朝から具合が悪かった。黒子は重い体を引きずって講義を消化したのだが、どうにも部活をする元気はなく、そのまま帰宅した。頭痛と吐き気がひどく、熱もあるのか頭がくらくらする。体温計で計ってみるときっかり38度。たしかにこれでは具合も悪くなるだろう。赤司に体調がすぐれないので部活を休む旨だけメールすると、黒子はさっさとベッドに入った。ベッドはひんやりと冷たかったが、こういう時は寝るにかぎる。

黒子が目覚めた時、なぜかネギ臭かった。どうしてだろうと体をおこしてみると、黒子の首にはしっかり布にくるまれたネギらしきものが巻いてある。匂いの原因はこれか。一体誰がこんなことを、と思ったのだが緑間くらいしか心当たりがない。寝ている間になにをしてくれているのか。熱はどうだろうとまた体温計を脇に挟んでみるも、どうやら先ほどより上がっているらしい。どうしたものかと考えていると、扉からノックの音がした。

「黒子、起きているか?」
「はい、入ってくれていいですよ」

ノックの主は緑間で、夕食を持ってきたようだった。見るとちゃんとお粥らしい。さらには生姜湯までつけられている。赤司から聞いたのだろうが首のネギといい過保護すぎではないか。

「夕食なのだよ。食べられるか?」
「はい。食欲はあまりないですが…」
「熱はまだあるのか」
「まぁ…」
「お前が寝ている間にネギだけは巻いておいたのだよ」
「むしろなんでこんな超古典的な治療を試みようと思ったのかが不思議でたまりません」
「市販の薬を飲むよりずっといいのだよ。明日になっても熱が下がらなければ病院へ行くといい。明日は午前中黄瀬が休講だったはずだ」
「一人でいけますよ」
「無理はよくないのだよ」

緑間は夕食だけ置くと、黒子の負担になると考えたのか「食器は廊下に出しておけばいいのだよ」とだけ言い残し、すぐに退室した。黒子は実家で風邪を引いてもこんなに優遇されたことはなかったのですこし戸惑いながらお粥を一口食べてみる。卵粥だったがあっさりしていてとても食べやすい。するすると胃におさまってしまう。こんなものまで作れてしまうのだから緑間はほんとうに器用だ。黒子がゆっくり夕食を食べていると、またノックの音がした。

「おい、風邪だって?」
「青峰君」

ノックの主は今度は青峰で、手にはコンビニの袋を携えていた。

「ほら、ポカリ。ポカリ2リットル飲むと風邪治るらしいぜ」
「どこの都市伝説ですか。でも助かります。ありがとうございます」
「いいって。それよりはやく風邪治せよ。なんかお前いないと調子でねーから」
「はぁ、そうですか」
「なんだよ」
「いえ、頑張って治します」

黒子がそういってポカリを受け取ると、青峰もすぐに席を立った。照れくさかったのかもしれないが、多分赤司あたりにあまり負担をかけないようにときつく言われているらしい。

黒子が夕食を食べ終わり、ゆっくりと生姜湯を飲んでいるあたりにまたノックがした。今度は紫原で、両手いっぱいにお菓子を抱えている。

「黒ちん風邪だってきいたから」
「はぁ」
「甘いものは疲れにいいんだって」

紫原は両手いっぱいのキャンディやらロールケーキやらどら焼きやら羊羹をベッドサイドにぼとぼとと置いた。いつものスナック菓子がないあたり気をつかってくれたらしい。けれどどうにも、治ってからでも食べるのが大変そうな量だ。

「ありがとうございます」
「うん。早く良くなってね」

紫原はぽんぽんと黒子の頭を撫でた。ついでに、と食べ終わった食器まで下げてくれるのだからほんとうに過保護だ。デザートに、と黒子は食べられそうなのど飴を一粒だけ口に含んだ。それは頬が緩んでしまいそうに甘くて、どうしようかと思うほどだった。

次に現れたのは黄瀬だった。どうやら仕事が終わってすぐ駆けつけたらしく、いつもよりなんだかキラキラしている。

「黒子っちが危篤だって聞いて飛んできたっすよ!」
「ただの風邪ですよ。大袈裟すぎます」
「風邪でも危篤っす!はいこれ栄養剤!俺は風邪のときこれ飲んでどうにか乗り切るんで!」
「はあ…ありがとうございます」

コンビニでよく見かける栄養剤だったが、カロリーハーフらしい。そこらへんなんだかモデル臭がする。それから黄瀬は暇にならないように、と自分が載っている雑誌を何冊も置いていこうとしたのだが、それはきっちりとお断りしておいた。黄瀬もすぐに退室したのだが、気づいてみるとなんだかベッドのまわりが賑やかなことになっている。ポカリに栄養剤にカラフルなお菓子に生姜湯の入っていたマグカップ。なんだか自分がとても保護されているような気がして温かい気持ちになる。

「テツヤ、入るよ」
「赤司君」

最後に現れたのは赤司だった。赤司はもう必要なものはみんなが持ってきていることを見越していたらしく冷えピタのパックだけ持っていた。

「熱を下げるのに便利だからね」
「なんだか赤司君に冷えピタって似合わないですね」
「そうかい?まぁ、僕は使ったことないから」
「そうですよね。すみません、体調管理もできずみんなに心配かけてしまって」
「あやまることはないさ。ほら、もう寝るといい」
「はぁ、ではお言葉に甘えて」

黒子が冷えピタを額にぺったりと貼ってベッドに横になっても、赤司は部屋を出ようとはしなかった。黒子が戸惑っていると、赤司は「なんだい?」と小首を傾げる。

「えっと…僕寝るんですが…」
「知っているよ。寝るまで隣にいてあげようと思って。ほら、こういうの小説にもあるだろう。風邪をひくと人は寂しくなるものらしいから」

だからこうやって、と赤司は黒子の手を両手でぎゅっと握って見せる。それがあんまり真面目な仕草で、黒子は「それ、多分間違った知識です」とも言えず、仕方なくそのまま瞼を落とした。なんだか幸せですね、なんて思いながら。


END


風邪をひいた黒子と異常なほど心配するキセキの話でした。
異常なほど心配、というよりは過保護?な感じになっちゃいましたね。
いいとこすべてかっさらってく赤司様マジ赤司様。
リクエストありがとうございます。



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