赤司と黒子






「昨日テレビでやっていたんです」

黒子は紫原からもらったらしいチョコレートの包み紙を丁寧に剥がしながら、呟いた。赤司はそのテレビをもしかしたら見ていたかもしれないなぁと記憶を手繰る。

「チョコレートにも致死量があるらしいです。チョコレートだけじゃなくて、醤油でも、塩でも、コーヒーでも、なんでも。大量に摂取すれば人間なんて簡単に死んじゃうらしいですよ。なんだかおそろしいですね」
「そう。でも死ぬほどのチョコレートを食べる前に胃が破裂してしまうよ」
「そうですね。でも醤油とかならいけちゃうきがしませんか」
「我慢して一気に飲み干せばどうにかなるかもしれないけれど、そんなのあるかい?」
「夏場に麦茶と間違えて麺つゆ一気飲みとか」
「テツヤは面白いことを言うね」

赤司はカリカリとペンを動かした。それは今日の練習メニューで、こないだの練習試合の内容をよく反映させていた。あの練習試合も大差で勝利したのだけれど、赤司の目にはそれほどよく映っていなかったらしい。勝利は大前提で、大切なのはその中身なのだそうだ。点差は大切でも、その点数の取り方は、そんなに大切じゃない。どこか矛盾している。どこか、おかしい。そんな小さな違和感を噛み砕くように、黒子はまぐまぐと口を動かした。一口ぶんのチョコレートを、丁寧に口の中でとろかす。甘かった。別段おいしいとは思わない。ありきたりな味がした。べつにチョコレートが欲しかったわけではなかったのだけれど、紫原がなんとなく気が向いたらしく「黒ちん食べる?」と差し出してきたのだ。それが大切だった。口の中に残った甘さをなめとるようにして唾液を飲み込むと、それは透明なフィルムだけをのこして、消えてしまったようだった。

「そう、もっと怖いのは水かな」
「水ですか」
「水にも致死量があるんだよ。生きていくために一番大切なものなのに。体重が僕やテツヤくらいなら、10リットルから30リットルくらいかな」
「でも、そんなにたくさん飲めませんよ」
「10リットルなら2リットルのペットボトル5本だよ」
「なんだか簡単な気がしてくるからおかしいですね」
「そう。実際やってみると難しいけどね」
「やってみたんですか」
「そんなわけないだろう。2リットルのスポーツドリンクも飲みきれないのだから、っていう推測だよ」
「水の飲みすぎで死んだ人っているんですかね」
「いるさ」
「その人はどういう気持ちでそんなにたくさんの水を飲んだんでしょう」
「想像もできないな」

赤司はメニューを組み終わったらしく、シャープペンシルを置いた。そうしてから次は最近の練習メニューとこないだの試合のスコアブックを見比べ、なにかしら考え込むような仕草を見せた。赤司は勝つことなんて考えていないのだろうなぁと黒子は思う。それは当たり前のように、それこそ水のように、摂取される。ちゃぷちゃぷと、お腹が苦しいようなそんな気がして、黒子はなんだかチョコレートが食べたいと思った。


END



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