23.an unfamiliar person




伏見が目覚めたとき、オフィスで寝たにしては随分身体が楽だなぁと思った。しかし自分の身体がしっかり毛布にくるまれ、やわらかなベッドの上に横になっていることに気づき、まず、「え、」と思った。慌てて端末を確認してみると、時刻はもう正午を回っていて、伏見はこの怪奇現象に首をひねった。自分はたしかオフィスで一眠りしてから帰ろうと思っていて、寝ようとしたあたりで宗像が、とそこまで思い出し、まさか、と血の気の下がる思いがした。夢現の中で宗像に抱き上げられた記憶がないでもない。自分の身体を見下ろしてみるとなぜかシャツ一枚で、上着やベストは外され、スラックスも履いていない。借りっぱなしになっている宗像の眼鏡をかけて部屋を見回すと、制服は几帳面な様子でハンガーにかけられていた。これは夢だ、夢に違いないともう一度布団をかぶってみるも、どうにも現実らしいとわかり、赤面したまましばらくベッドから抜け出せそうになかった。

「ていうかなんで俺の部屋知ってんだよあの変態眼鏡!!」

悪態をついて枕を殴ると、ぼふりと間抜けな音がした。たしかに寮住みなので宗像が伏見の部屋を知っていてもなんら問題はないのだが、なんだか気分が悪い。伏見はほかの隊員の部屋なんて何階にあるか程度しか把握していないため、個別に全て把握しているだろう宗像はむしろ気持ちが悪かった。他になにか不都合なことはないかと部屋を見回すと、テーブルの上に封筒が置いてあった。それはどうやら伏見が宗像から受け取ったまま制服のポケットに入れっぱなしになっていた書類らしい。そういえばいくら保険が降りたんだ、と今更ながら確認してみると、まぁ妥当だろうな、という金額が口座に振り込まれていた。その明細と、報告書と、なぜかもう一枚書類が封入されており、伏見はなんだなんだとそれを広げる。見てみるとそれは休暇届出用の書類らしかった。それを見て伏見は「今更おせーよ!」と一人怒鳴り、けれどなんともいえないこそばゆさにどう反応していいかわからなくなった。自分も大概ひねくれていると自覚があるが、宗像も相当だ。何がしたいのかわからない。昨晩頬を撫でた手の暖かさを思い出し、伏見はいたたまれない心地がした。

そういえば忙しさにかまけて眼鏡の発注をしていなかった。伏見はひとしきり悶々としてから、はたとそのことに思い至った。今日のうちに注文を済ませてしまおうとさっさと身支度を整えはじめる。十分な睡眠をとったおかげか、負傷した足の方も調子がよかった。むくみがすっきりととれて、庇いながらにはなるが、これならば松葉杖なしでも出歩けそうだ。伏見はぬるくなった湿布を剥がし、足首の状態を確認してみる。するとくるぶしが復活し、腫れも随分引いていた。痛みは残るが、あと1週間経たずとも全快するだろう。そうしたら今度は戦闘か、と伏見はため息を吐いた。ことあるごとにサーベルは扱ってみていたのだが、どうにも重たくて動作が遅くなってしまう。実戦に出るには少々どころか大いに問題があった。基本的に伏見は特務隊において情報班の班長であるため前線に出ることはほかの隊員に比べればすくない。けれど全くないわけではないし、現地にいかなければ情報が取得できない場合や戦力の必要になる戦闘では前に出ることも多かった。投擲用のナイフのほうは扱いに問題はないのだが、それだとセプター4の戦闘形態上問題が生じる。前線に立つのは難しいだろう。なるだけ軽いサーベルに持ち替えて、あとは地道な筋トレしかないだろうなぁとそこまで考えて気が重くなった。さらには普段なにかにつけてさぼっている訓練にも参加しないわけにはいかなくなってしまった。さすがに合同演習は免除されるだろうが、特務隊の稽古くらいには顔を出さなくては宗像がうるさいだろう。もう特例でナイフに持ち替えさせてさえもらえれば問題ないのに、と投げやりな思考が頭をよぎった。面倒だから個人の戦闘ではもうそのスタイルを貫きたいものだ。サーベルはもとから堅苦しくて苦手だった。個人の近接戦闘であればサーベルよりナイフの方がしっくりくる。伏見はちらりとクローゼットの奥にしまいこんだ昔のナイフを思い出し、頭を振った。今日でも、次の週末でも、新しいものを探しに行こう。今日はまだ半分も残っている。


END


なんとなく吠舞羅時代に使ってたナイフは使いたくないなぁと思ってる伏見が書きたくて書いた休憩のような話。
ていうか宗像さんが伏見の服脱がせてるとこ想像するとただの変態眼鏡にしか見えないんですけど。
とりあえず宗像との話はひと段落です。



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