まだあなたを愛していたいから目を閉じる






周防に抱かれるようなことがあったらきっとそれはもう乱暴なセックスになるのだろうなぁと伏見は思っていた。百獣の王のような見た目であるからして、そこかしこに噛み付かれ、痕を残され、もしかしたら筋の一箇所や二箇所は痛めるかもしれない。はやく終わってくれと願ってもそれはなかなか終わらなくて、周防が満足するまで繰り返される。身体の自由を奪われて、周防の好きなように弄ばれ、もう二度とこんなのはごめんだと思うセックスなんだろうなぁと。そんなくそったれたイメージを抱いていたのに黙って周防に身体を明け渡した自分はきっとどうにかして周防を完全に嫌ってしまいだかったのだと伏見は思った。周防の香水を今までになかった距離で嗅いで、むせ返るような匂いにくらくらした。周防の指がするりと伏見の肌と服の間を滑る。首のあたりからかすかにリップ音が聞こえて、熱い舌に目眩がするようだった。

「…っ?」
「…なんだ」
「…なんでもないです」

伏見はこんなひと知らないと思った。周防はまるで伏見が少しでも力を入れれば壊れてしまうとでも思っているかのように丁寧に扱った。痛みを伴うと思っていたそれはどうにもむず痒く、息が荒くなる。そんな変なふうに扱わないでくださいという意味を込めて伏見が周防の首に噛み付くと、耳元で微かなうめき声がした。低くて、穏やかで、なのにどこかくすぶっているようなその声。くっきりと歯型を残して、伏見はへらりと笑う。その緩んだ口を塞ぐように、周防はゆっくりと、キスをした。頭がぐらぐらするようなキスだ。周防の息が熱いなぁと伏見は思っていたのだが、それは自分の息だった。なんだかおかしい。ただ気持ちがいい。ずっとこうしていたいと思う。身体がどろどろに溶けていくようで、ただただ手放しの快楽だけが伏見に与えられた。そうして、伏見はぼんやりとああこの人は怖いんだろうなぁと思った。そんなありきたりな、溺れてしまいそうな愛なんて、いらないのに。汗ばんだ肌を重ね合わせて、何かを埋め合わせるようなセックスをして、それで、それで、薄っぺらい形だけの愛を交わして、なんになるだろう。伏見のつけたありきたりな歯型だけが、なにかのかたちをしているようで、伏見はゆっくりと目を閉じた。こんなひとは知らない。こんな寂しい、可哀想なひとなんて、伏見は絶対に知らないのだ。


END


title by 彗星03号は落下した



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