ねぇおかしいでしょう




「ねぇ伏見さん、俺は、ずっと思ってたんです。辛いことや悲しいことにはちゃんとレベルがあって、それをひとつ乗り越えるたびに自分のレベルもあがって、それくらいのことじゃどうじなくなるんだって。ねぇ、伏見さん、おかしいでしょう。ゲームじゃないんですから」

ふふふ、と秋山はなんだか悲しそうな顔をした。そんな秋山の表情はとりあえず隣においておいて、伏見は秋山もゲームだなんてくだらないものやったことがあるのだなぁと変なところに驚いた。秋山はもっと、読書とか、音楽鑑賞とか、そういう教養じみたものに過去を費やしてきたのだと、そう思っていたものだから。

「秋山もゲームなんてしたことあんの」
「人並みにですよ。最近はしばらく触ってないですが。一昔前にずいぶんはやったゲームがありまして。すごくたのしくて、やってましたね」
「一昔前って、十年前って意味らしいぜ」
「はい、ちょうど、それくらいでした」
「高校生の秋山」
「はい」
「ゲームしてる秋山」
「はい」
「なんか変」
「そうですか」
「そうだよ」
「中学生の伏見さん、もしかしたら高校生の伏見さん、ゲームしてる伏見さん」
「ああ」
「ちっとも変じゃないですよ」
「まぁ」
「俺だと」
「変」

なんででしょうねぇと秋山は笑った。へらへら笑った。その笑顔がなんだか気に入らなくって、伏見はそっぽを向いた。秋山はきっともうゲームなんてしないんだろうなぁとわかったから。

「そうそう、そのゲーム、主人公の仲間が強制イベントで死んじゃうんですよ。おかしいでしょう」
「なにそれ。経験値振り分けるだけ無駄じゃん」
「そうなんです。でも俺、そのキャラクター大好きで、一番レベルあげちゃって。イベントおきたとき一度リセットしましたし。でも何度やっても死んじゃうんですよ。あとで確認したら強制イベントで。俺すごく悲しくて、むなしくて、未だにクリアできてないです」
「なんだそれ」
「ねぇおかしいでしょう」

そう、それから、そのキャラクター伏見さんにそっくりなんですよ。秋山がそう言った時の顔が、伏見はなんだか見ていなくても想像できてしまった。できてしまったから、見なくてもいいんじゃないかって、そう思ったけど、そうしようもなくて、ふと秋山の方を見た。そしたら想像通り、泣いているのか笑っているのかわからないような静かな、けれどとても激しい表情をしていて、伏見は舌打ちをした。それから、きっと秋山はまたこのゲームもクリアできないんだろうなぁと思った。強制イベントは必ず起きてしまうものだから。


END



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