12. in the private room




※引き続き生理ネタ






鎮痛剤が効いているうちに伏見はどうにか帰宅した。持ち帰られるだけ仕事を持ち帰りたかったが、余裕もなく、あとでだれか寮住まいの隊員に持っていかせる手はずにした。私生活でまで誰かと顔を合わせるのはまっぴらごめんだったが、休み明けに仕事に忙殺されるよりはずっとマシだった。伏見は家にかえるとすぐにいつものスウェットに着替え、上半身を締め付ける下着を外した。なんだか膨らみを増したような乳房が憎たらしい。べたべたとまとわりつく気だるさや吐き気に、伏見はベッドに横になった。なんだかとても辛い。ぐちゃぐちゃと言語化できないような不快感や苛立ちがぐるぐると喉元のあたりにわだかまっているようで叫びだしたくなる。ひどい気分だった。

いつの間に寝てしまったのだろうか、伏見はインターホンの音で目が覚める。すると薬の効果がきれたのか、思い出したように腹痛がして、伏見は舌打ちをした。どうにも起き上がれそうになくて、そして起き上がるのが億劫で、伏見は枕元の受話器をとると、「入っていい」とだけ言った。そういえば誰が来たのか確かめてないなぁと思ったが、多分秋山だろう。少しすると少し緊張したふうにドアが開き「失礼します」と。そこで伏見は「ん?」と思った。その声が明らかに秋山ではなかったからだ。ベッドの上に起き上がったのとだいたい同時にその人物は部屋に入ってきた。

「…日高か…」
「あ、はい!秋山さんが忙しかったんで俺が…大丈夫ですか?」
「…いいから、仕事置いてさっさと帰れよ」
「…すみません」

日高はなんだかめずらしくどぎまぎしていて、うろうろとせわしなく視線を彷徨わせている。制服でなく私服であるところを見ると仕事終わりらしい。もうそんな時間になるのかと伏見はやっと時計を確認する。電気をつけたままカーテンを締め切っていたので気づかなかったが、時刻はもう18時を過ぎたあたりだった。電気をつけたまま寝てしまったせいで頭がぼんやりしている。そういえばこの部屋に誰かを入れるのは初めてだったかもしれない。プライベートな空間に誰か他人がいるというのは不思議な感覚だった。自分の中身を暴かれているようで、落ち着かない。

「えっと、報告書何枚かと、あとは休暇の申請書…それから昨日のストレイン絡みの書類と、関連のデータです。こっちでも解析すすめてるんですがいまいちはかどってなくて。ノイズの消去とデータ解析お願いします。必要があれば俺がデータやら機材やら届けたり取りにくることになってますんで、なんかあったら俺に連絡ください」
「…秋山じゃだめなの」
「え、…伏見さんが秋山さんがいいなら俺から頼んでみますが。なんか…ちょっと忙しいらしいんですけど」
「別に。忙しいなら別にいい」
「はぁ…そうですか。あ、あとこれ副長からです」

日高は私服のポケットから小さなポーチのようなものを取り出した。伏見が受け取って中身を確認するとそれは錠剤で、痛み止めなのだろうと予想がついた。パッケージから出してあるのに丁寧に説明書だけはついていて、こういう細かい気配りができるあたり淡島も女なんだなぁと伏見は思った。

「随分顔色悪いですけど、大丈夫ですか?二日休暇とか聞きましたけど」
「うるせぇよ。で、何、まだなんかあんの」
「あー室長からとりあえず伏見さんの様子見て、何も食ってなさそうだったらとにかくなんか口にねじ込んできてくださいって言われてましたけど、なんか食べたいものありますか?コンビニとかで買ってきますけど」
「…さっき食った」
「…寝起きっすよね」
「食ったら吐くから」
「そんな悪いんですか?」
「いいから、はやく帰れ」

だんだん起き上がっているのも辛くなっていて、背中のあたりにじっとりと脂汗が滲むのが分かった。そんな伏見の様子に気をつかったのか、日高は「じゃあ…」と席を立とうとする。

「でもなんも食べない方がやっぱ体にわるいと思うんで、なんか適当にゼリーとかヨーグルトとか野菜ジュースとか消化良さそうなもん俺が買って、宅配ボックスに入れとくんであとで食べれそうなときにでも食べてください」
「…俺野菜嫌いなんだけど」
「じゃーポカリにします」
「…炭酸がいい」
「病人がなに言ってんすか」

病人じゃねーし、と思い伏見は舌打ちするも、変な勘ぐりをされそうで口に出すことは憚られた。ままならないものだ。

日高もなんだか落ち着かなかったのか「じゃあお邪魔しました」と断ると、そそくさと伏見の部屋を出ていった。部屋がしんと静まり返ると、腹痛が増すようで伏見はさっさと水をくみ、痛み止めをきっちり二錠流し込んだ。胃の中になにも入っていないせいかキリキリと痛んだが知ったことか。ぐるぐるといろんなものが渦巻いているようで、気持ちが悪かった。


END


やたら生理が重い伏見とイケメンを装う日高が書きたかった話。



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