背中を向けて進む未来





だって、ジグソーパズルは作っている過程が楽しいじゃないですか。出来上がったそれは、結局ノリで固めて、額縁にいれて、ぼんやりとつまらない絵画のように美しいばかり。僕はそんなつまらないものに、青春というものを完成させてしまいたくなかったのかもしれない。赤司君がちゃんと額縁を用意して、間違わないようにひとつひとつ丁寧にピースを集めて、ちぐはぐでもしっかりと形の合うように、丁寧に、けれど怠惰のようにぞんざいにそれをはめ込んで、みんなが頭を悩ませながら作り上げていく。そんな眠たくなるような心地よい空気が、僕は愛おしくて、愛おしくてたまらなかった。けれどその完成形がみえてきてしまったとたんに、僕はそのパズルに描かれた絵が、なんだかとても単純で面白みがなく、ぼんやりとしたものにみえてしまったんです。だから僕は、僕が持っているピースを、そっとどこかに隠してしまった。それはほんとうに少しのことだったかもしれません。けれど、パズルというのは不思議なもので、それだけで絶対に完成しないことが決まってしまった。それが恐ろしくて、僕は急に、逃げ出したくなってしまいました。みんなが一生懸命になって作り上げていくそれが、僕によって完成しない。未だ見えない完成形は、本当に見えないものになってしまった。その点で言えば、僕は加害者なのかもしれない。だから、恐ろしかった。自分の正しさを、証明しなければならなくなった。そうしたら、そのパズルは本当につまらないものになってしまって、みんながみんな、今まで作り上げたところも違う違うと首をひねり、バラバラにしてしまって、新しいピースをはめ込みはじめてしまった。それはもう大きさも、絵柄も、ほんとうにバラバラになってしまって、もう元にはもどらない。

おかしなものです。僕はそうなってしまった途端に、そのパズルをもとのかたちに戻そうと、躍起になりました。手の中に隠し持っていたいくつかのピースを、きっとそれがあるべきだったろう場所にはめ込んでみては、いやに浮いてみえて、泣き出しそうになる。馬鹿げた話です。赤司君はそんな僕を見たら、どう思うでしょう。もうみんな、バラバラに作業をはじめてしまっている。僕たちがみんなで作り上げようとしたそれはもうどこにもなくて、ただ、完成しそうにないパズルを、それぞれが新しくはじめてしまっている。みんなで向き合ったその作業は、いつからか背中を向けて行う作業になっていました。僕のピースもかたちを変えて、色を変えて、手の中にある。それはとても悲しいことなのに、僕はどこかほっとしたような気持ちになりました。これでよかったのかもしれません。僕はそう何度もつぶやきました。けれど、そこかしこに散らばる懐かしいピースを見つけては、パキリパキリとどこかが壊れるような心地がするんです。完成することのなかった、それ。つまらないと思えていたものが、どうして、かけがえのない大切なものだったのではないかと思えてきて、僕はまた逃げ出してしまいたくなりました。けれどどうしても僕のパズルにそぐわないピースを見つけるたびに、またあの場所に戻って、つなぎ合わせてみたくなる。実際そうしてみれば、ぴったりとはまるに違いないのに、僕はそうしない。そうしてしまったら、あの空間のうつくしさに、懐かしさに、幸福に涙が出てしまいそうだったから。僕はなんてバカなことをしてしまったのでしょう。あの日々はもう戻らない。手の届かないうつくしさを保って、ただ、過去にある。

僕はひとつだけ、真っ白ななにもないピースを見つけて、首をかしげました。どこにも当てはまりそうにない、それが、なんだかやけにきらきらして見えます。そのきらきらが、あの日々の輝きに似ているような気がして、僕はひっそりと、懐かしい部屋に戻ってみることにしました。そこにはもう誰もいなくて、ただ静寂と寂寥だけが滞留していました。床には見る影もなくばらばらになったピースが散乱していて、僕は泣き出しそうになる。けれど、よくよく見るとそれらはすべて真っ白になっていて、浮き出ていたはずの絵柄はどこにも見当たりません。僕は床に座り込み、その真っ白なピースを一つずつ丁寧に、つなぎ合わせはじめました。絵柄のみえていた頃より、ずっとずっと難しくて、時間のかかる作業です。僕は何度も投げ出してしまいそうになりながらも、それを続けました。あの日をゼロに戻すように、未来をつむぐように、たったひとりで、この部屋の扉が開くことを、静かに、願いながら。


END



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -