だってあんたがそんな顔をするから






宗像はゆっくりと、静かに目を細めて伏見の火傷のあとを指でなぞった。そこになにか美しい幻想でも見ているようにうっそりと、いとおしむように。伏見はああこのひとは俺のことなんてこれっぽっちも見ちゃいないんだろうなぁと思った。けれどそれはお互い様で、伏見も同じように宗像なんて見ちゃいなかった。それで成り立っていたこの関係の、なんて汚く、あやふやで、脆いことか。伏見は今になってそれがどうにも儘ならないものだと思った。宗像はぷつりぷつりと涙をこぼすように、伏見のそこに額を押し付ける。二人の間に距離なんてないのに、どうして、遠く離れているようだった。

「伏見君、君はまだずっと若い。やり直そうと思えば、どうにだって、できるでしょう」

伏見はまだ社会的には子供だった。大人になりきれない、子供にもなりきれない、そんな隙間をたゆたうようにしている。それを宗像は捕まえて、諭すように、後悔するように、呟いた。いったい誰を重ねてそれを紡ぐのか透けて見えるようで、伏見はじっと天井を見た。蛍光灯が、眩しい。

「伏見君、きっと、これが最後なのではないかと、私は思います」

どうか、後悔のないように。そっと伏見を手放した宗像は、静かに、泣きそうな顔をしていた。こんな大人にはなりたくないなぁと、伏見は思った。こんな、なにかに執着して、失って、喪失の恐怖に怯えてゆるゆると指に隙間を作るような、そんなのは御免だった。けれど、宗像の頬にぺたりと手のひらを這わせて、その輪郭を確かめると、それはたしかに自分のかたちをしていて、ひんやりと、冷たかった。きっと自分もこうなる運命にある。伏見はちゃんとわかっていた。伏見のつま先はしっかりと宗像に向いていて、それが踵をかえすことは、もうないのだ。いつの間にかいらないと思っていたものにがんじがらめにされて、もう動けない。手放しきれずに服の裾を掴む宗像は、みっともなかった。みっともなく、惨めで、かわいそうな大人だ。さみしい人だ。きっと大人になる過程で駄々のこねかたを忘れてしまったにちがいない。伏見はもう一度蛍光灯を見つめて、その眩しさに目を細めてから、それを閉じた。そうして、やっと、宗像を見つめる。

「だって、俺がいないとあんた、ダメでしょう」

指先が濡れたような、そんな気がした。


END



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