7.don't say it




「秋山さん、伏見さんそんなに具合悪かったんですか?」

伏見が早退した挙句、施設の外までは秋山が送っていったと聞いた日高が気になって仕方がないというふうに尋ねた。秋山はどう答えていいかわからず、「…うん、ほら、伏見さん急に色々変わってたろう。その関係で色々大変らしい」とあながち嘘とも言えない返事をした。日高はそれで引き下がったのだが、道明寺あたりは廊下での騒ぎをどこかで聞いてきたらしく、なにか怪しげな微笑を浮かべている。こういう噂を面白半分で吹聴するような男ではないと思うが、ことがことなので秋山は胃の痛む思いがした。

伏見の顔があんまりにも泣いたあとという面持ちをしていたので、秋山は施設の外までは伏見に下を向かせ、庇うようにしてついていった。秋山的には部屋まで送るべきかと思っていたのだが、伏見が「ここでいい」と言って譲らなかったために施設の出口で見送ったのだった。それにしても噂が出回るのは早いものだ。伏見の早退許可をとるために秋山は室長室にも出向いた。宗像は顔に反省の色を貼り付けて、快く伏見の早退を許可した。そんなにひどいことをしでかしたのかこの人はと思わなくもなかったが、なにがあったのか尋ねるのは伏見のプライドを考えたときによろしくないような気がした。そのため秋山が知っているのはただ宗像と何かあったらしい伏見がかわいそうになるくらい怯えて涙を流していたという事実だけになる。それだけでも気安く口にだすべきではないのだろうと秋山はちゃんとわきまえていた。

「伏見さん具合悪いならお見舞いとか行った方がいいですかね」
「うーん…多分明日からは出られると思うから不要かな。負担になるだろうし」
「でも伏見さんが早退とか珍しくないですか。俺初めて聞きましたよ」
「ほら、最近色々あったから。室長も大事をとってってかんじだったし」
「…まぁ秋山さんがそういうんだったら…」
「そうだね。それから…明日…明日伏見さんが来ても今日のことはあんまり話題に出さないでもらっていいかな。伏見さんわりと嫌々帰ったふうだったし。プライド高い人だから」
「…わかりました」

なんだか日高は腑に落ちないような顔をしていたけれどこればっかりは仕方がない。なにか察したらしい淡島が書類を片手に席を外したのを見て、秋山はやることはやったような気持ちになる。あとは伏見から引き継いだ仕事を弁財と分担してミスのないように終わらせるだけだ。一息ついたときにどうにもたよりない伏見の背中を思い出して、なんだか切なくなった。けれどそんなのは部下が上司に抱くべき感情ではないのだろうなぁと思い、秋山はやっとため息をついた。

淡島はノックをして執務室に入ると、いつものように宗像に必要な書類を提出した。それから、と気になっていた話を切り出す。

「室長、書類ついでにお話があるのですが」
「なんでしょう」
「伏見の件についてです。体調不良とのことでしたが、それは本当でしょうか」
「ええ、本当ですよ」
「具体的には」
「…秋山君からの報告だとどうにも仕事のできる状態ではないとのことで。最近ああいうことがあったばかりでしたので大事をとらせましたが、何か」
「室長は詳細はご存知ないと」
「…そうなりますね」

淡島はどうにも腑に落ちないという顔をして宗像を見る。女の勘というのもあるが、淡島はどうも秋山の態度が気になっていた。普段早退や病欠のような些事の報告は室長の宗像ではなくまず淡島に言うのが常だった。淡島がまずそこで判断をし、その旨を室長に報告する。だが今回は順序が逆だった。秋山のような男がこのような行動を取るのにはなにか理由があるはずだ。淡島はそれが気になったのだが、宗像がこのような態度では詳細を聞き出すのは難しいだろう。淡島はきっと尋常でなかったろう秋山の苦労を思い、ため息をついた。

「室長、詳細は聞きませんが、あまり伏見に負担をかけるのは」
「ええ、負担をかけるつもりはなかったんですが…彼…彼女、ですかね。とにかく悪いことをしました」
「こういうのも失礼かもしれませんが、めずらしいですね、室長が反省の色を見せるのは」
「私にも良心というものは存在するのですよ、淡島君」
「そうですか。ではその良心というものに従ってこの書類に目を通していただけますか。それから伏見のぶんのデスクワークを秋山と弁財が分担しているのですが、それを室長にまわしても?」
「…甘んじて受けましょう」
「…ほんとになにされたんですか」

いったいこの上司は何をやらかしたのやら。淡島は頭痛のする思いがして、思わずこめかみをおさえた。


END


苦労人秋山が書きたかっただけ。
室長が最低すぎていっそ清々しい。


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