5.there is no telling how I may touch





「どうしよう伏見さんが可愛くみえてきてほんと生きるのが辛い」
「じゃあ死ね」

昼休みの食堂で頭をかかえる日高を布施がばっさり切り捨てた。席には榎本も五島もいたが、五島は我関せずという顔でもくもくと箸をすすめ、今朝の騒動を知っている榎本はまぁわからなくもないと困ったような顔を浮かべた。

「だって伏見さんなんかいい匂いするんだぜ!?なにそれ怖いよ!あの人とか大抵血なまぐさいばっかだったのに突然化粧品っぽい女の子の匂いとか辛い!あとなんか柔らかい!今朝階段で転びそうになってたの支えたらそのいい匂いがふわっとして腕とかめちゃくちゃ細くて腰とかなんかもう柔らかかったし俺なんかセクハラしてる気分になったしそのあと別にお礼とか言われてなかったけどもしもありがとうの一言でもあったら多分惚れてた死にたい。それになんであの人平気で更衣室に入ってくんの…そしてなんで平気で脱ぎ出すの…名前的に俺が一番ロッカー近いんだけどなんなのなんで黒のシンプルな下着なの…俺そういうの大好き…」

日高は一息でそこまで言ってからテーブルに撃沈した。注文したうどんが伸びているが本人はそこまで気がまわらないらしい。先ほどまで日高をどうにかかばおうとしていた榎本もこれには若干ひいたようでうわぁという顔になる。

「え、あの人男子更衣室使ってんのか?」
「ああ、うん。昨日は制服で出勤してたけど、多分淡島副長あたりにたしなめられたんだろうね。今朝更衣室入ったら伏見さんが着替えてて間違って女子更衣室入ったかと思ってすみません!って言っちゃったよ」

布施が驚いたように尋ねると榎本が困り顔で答えた。

「あ、でも下着はつけることにしたんだな。昨日はわりと秋山さんが気ぃつかってたから助かったけど。今日もそうだったら今度は誰が上着着せるかじゃんけんだったもんな」
「ほんとにね。伏見さんも色々大変だよねぇ。いつもよりずっとイライラしてるけどなんかイライラしすぎて静かになってるし。自分がもしも突然性別かわっちゃったらとか考えるともう仕事どころじゃないのに伏見さんはデスクワークやっぱり完璧にこなしてるし、そこはほんとすごいと思うよ」

そういえば、と今まで沈黙を保っていた五島がふと口を開く。

「んふふ、そういえば伏見さん、まだ19歳でしたねぇ」

その一言に日高が椅子から転げ落ち派手な音を立てた。そうして意味不明なことを叫びながら両手で顔を覆って転げ回った。もうフォローする気も起きない榎本が「そうだねぇ」と言いながら自分の蕎麦をすする。

「日高、そろそろ椅子に戻れ。迷惑だから」
「だって伏見さん今まで生意気未成年のくせにとかしか思えなかったのに19歳って女子にしたらステータスじゃん!もう俺犯罪者じゃん!辛い!伏見さんが可愛すぎて生きるのが辛い!」
「可愛いっていうより美人系だけどな。副長とはタイプ違うけど」
「副長は女性として見れないもん!あの人女性として完璧すぎるしまずもって強すぎて女じゃねーしすげーボンキュッボンだけどそれも完璧すぎて高嶺の花どころかエベレストの山頂に咲き誇ってるんだけど伏見さんはもうなんつーの?もっとこう…隙のある美人っていうかあの人自覚なさすぎてむしろこっちが恥ずかしいんだって」
「日高、そろそろ本気で気持ち悪いよ。うどん伸びてるし。はやく食べなよ」
「自覚っつってもなー。もとは男だろ。日高の気持ちもわからなくはないけど、実際女性扱いすればいいのか、男として扱ってていいのか困るよな。室長は完璧前のままだけど、副長あたりは態度軟化してるし、秋山さんとかは気ぃ使ってるし」
「うーん。難しいよねぇ」

いろんな意味で頭をかかえる三人を尻目に食べ終えた五島がきっちり両手を合わせる。そうしてから関係ないかもしれないですが、と前置きをして「今朝伏見さんの目、腫れてましたねぇ」と。瞬間「え」と三人がびしりと固まる。あの血も涙もないどころかオイルとか違う液体が体内を流れていそうな上司の目が腫れていたなんてそんなことがあってたまるか。日高は日高で「俺もう一生伏見さんのこと守り続ける」とわけのわからないことを叫びながら自分ののびきったうどんをぶちまけるし、布施は布施で思うところがあるらしいし、榎本はどこまで気をつかうべきかを考えだすしで四人の昼休みは怒涛のように流れてしまった。時間になってオフィスに戻ると、年下の上司はいつものように食べたのか食べたのかわからないカロリーメイトだけを机の上においていて、とりあえず榎本があとでチョコレートか何かをすすめることになった。今日はまだあと半分も残っており、それを思うだけでなんだか気の遠くなるような気がした。


END


日高:馬鹿
榎本:面倒見がいい、女子力高い
布施:イケメン
五島:静かな天然

以上のイメージで書きました。
違和感半端なかったらすみません。


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