七日目





雑誌の撮影のあとインタビューがはいり、そのあと次の撮影の打ち合わせをしなければならなくて、黄瀬がようやく家にたどり着いた時には午前二時に差し掛かるあたりだった。明日も朝から講義が入っているのに本当に辛い。黄瀬は満身創痍でどうにか帰宅し、空腹もあって何かないかとキッチンへ向かった。するとそこには緑間がいて、静かにお湯が沸くのを待っているところらしかった。

「あれ、緑間っち珍しく遅いっすね」
「レポートを書いていたのだよ。多分朝までかかる」

緑間はため息混じりにそう言った。どうやらコーヒーはドリップするらしい。インスタントではないブルマンサントスのいい香りがキッチンいっぱいに立ち込めていた。ケトルが高らかに音を立てると、緑間はそろそろとドリッパーにお湯を注ぎ始める。豆はお湯を注げば膨らむほどに新鮮だった。

「大変っすね」
「お互い様なのだよ。ホットミルクでいいか?」
「え?ああ、はいっす」

ついでなのだろうが、黄瀬は少し驚いた。そういえば緑間はなんだかんだ毎朝六人分の朝ごはんを作ってくれていたり、掃除が行き届かない細かな部分をいつも片付けてくれていた。わがままな性格が先行して見えづらいが、緑間はしっかりと自活できるだけの生活力を持ち合わせているらしい。それからなんだか口に出すには気恥ずかしい思いやりだとかそういうものも。中学では絶対に考えられなかったことだなあと黄瀬は面食らった気分になったようだった。かしかしと気まずげに頬を指でかいている。

緑間が作ったホットミルクにはハチミツが少しだけ落としてあり、黄瀬の疲れたからだにじんわりと染み込むようだった。緑間は早々に部屋に引き上げたが、黄瀬はキッチンでゆっくりとホットミルクを飲んだ。緑間は相当レポートが立て込んでいるのだろう。医学部は大変だ。黄瀬はホットミルクを飲むうちにうつらうつらとしてきて、ああ風呂にだけ入ってしまわないと、と空になったマグカップを流しに置いて部屋に着替えを取りにいこうとした。けれど、少し考えるそぶりをして、さっき置いたマグカップとスポンジを手に取った。黄瀬はそれを丁寧に洗って、水切りに立て掛ける。明日の朝、眠そうな顔をしているだろう緑間のことを考えると、少しだけ後ろめたかったのだ。ただ、それだけだ。


END




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