空虚に淀む







草薙はばちんと軟骨に穴を開けた。小さな穴だ。周防がそうしたように、草薙も女々しさをなだめながら、ピアスをいれた。周防がつけていた十束のものは見つけられなかったので、といより探す気力も起きなくて、ファーストはどこにでもある銀のありきたりなデザインにした。もしもそのピアスが見つかったところで自分の慰めにする気は毛頭なかったし、自分が持っているべきではないのだろうなぁと思っていた。じくじくと痛むそこを鏡でたしかめると、なんだかとても似合っていない。肌と金属が反発してうっすらと赤が滲む。あの日失ったしるしのかけらがそこに見えて、草薙サングラスの向こうでぐにゃりと表情をゆがめた。ぎゅっと目を瞑ると草薙さん、草薙さん、とすがるような声が鼓膜の奥でねっとりと反響する。周防がいなくなってしまったらクランはもう草薙を頼るか抜けるかのふたつしかなかった。それが手枷足枷のように草薙を縛って、もう身動きがとれない。じゃらじゃらと音が聞こえるほどで、草薙は息のつまる思いがした。バーカウンターにはもう周防が座る
ことはない。そう思うとなんだかこのバーが一気に場末のしみったれた店のように思えた。行き場のないどうしようもない社会府適合者ばかりが集まる吹き溜まりのような店。疲れのような悲しみのような恐ろしさが込み上げた。カランコロンとベルがなる。草薙はすぐにばさりと重たいコートのようなそれを脱ぎ捨てて、へらりとした笑顔を作った。

「いらっしゃい」

バーホムラへようこそ、と言おうとして、一瞬その名前が思い出せなかったた。ああこの店はもう吠舞羅ですらないのだなぁと草薙は泣きたくなった。草薙の耳には穴が空いている。空虚がぽっかりと、幅を利かせているのだ。


END





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