青春の真ん中に六人ぽっち
「全世界の人口って何人だっけ」
紫原がシャーペンを起用にくるくる回しながらぽそりとつぶやいた。期末テスト前にみんなで机をくっつけて赤点防止の勉強合宿をしていた。今は社会科の対策をしているところで、早々に飽きたらしい青峰と黄瀬は赤司からじろりと睨まれていた。
「約70億人ですよ」
黒子がぱらりと教科書をめくり、確認してから紫原に教えてあげる。緑間はそんなことも知らないのか、とあきれ顔だった。
「へぇ、もうそんなになるんだ。ずっと60億人くらいだと思ってた」
「ずいぶん増えましたからね」
「人口って増えるんだね。日本人減ってるから実感ないや」
「そうですね」
黄瀬と青峰がやっとまたノートにかりかりとシャーペンを走らせるのを見届けて、赤司もまた参考書に目を落とす。しばらくまたかりかりとシャーペンを走らせる音だけが響く。ノイローゼになりそうな音だ。学校生活の隅に必ず響いている、無機質で、どうしようもなく機械的な音。
「そういえばさぁ赤ちん」
「なんだい」
「世界の人口は70億で、日本の人口は?」
「約1億人だよ。ほんとうはもう少し多いけれど、テストではこう書けば丸がもらえる」
「ほんとうは?」
「…約1億2000万人かな」
「2000万人いなかったことになってんじゃねーか。そんなんでいいのかよ」
集中力を切らしたらしい青峰が二人の会話に割って入ってきた。赤司は少し咎めるような視線を送ったが、一応勉強内容に関係のあることなので大目に見るようだった。
「そういえば、そのうちで中学3年生の人口ってどれくらいなんですか?」
黒子がふとそんな疑問を口に出した。さすがの赤司もそれは知らなかったらしく、資料集をぱらぱらとめくる。青峰同様集中の切れてしまったらしい黄瀬も資料集をめくった。つられて気になったらしい緑間も資料集に目を落とす。紫原はさくさくとお菓子を食べた。
「うーん、中学生全体の人口しか載ってないっす」
「単純に3で割って、125万人くらいかな」
「そんなにたくさんいるんですね」
「そうか?人口と比べたらずいぶん少ないのだよ」
「だって、緑間君、その125万人が僕たちみたいにそれぞれ個性をもって、毎日バラバラの行動をして、いろんな生活スタイルでこの狭い国にいるんですよ」
「まぁそう言われれば」
「そんなにたくさんの中学生の中の、たった6人なんですね、僕たち」
それってなんだかさみしいですね、と黒子はシャーペンを止めた。なんだか深い沈黙が降り注いで、音という音を覆い隠してしまったみたいだった。それをするりと払いのけて、赤司がパタンと資料集を閉じる。
「ほんとうに、さみしいかい?テツヤ」
赤司はじっと黒子を見つめた。
「だって僕たちは6人もいるじゃないか。6人がそれぞれバラバラの個性をもって、毎日バラバラの行動をして、いろんな生活スタイルで、この国にいて、今こうして時間を共有している。それは、そんなにさみしいことかな」
大きな数は小さな数をたくさん切り捨ててしまうけれど、小さな数は確かに存在している。資料にはない数字が、確かに存在しているのだ。それはなんだかとても不思議で、あたりまえのことだ。黒子は静かに「ああ、そうですね。さみしくなんて、ないですね」と答えた。シャーペンがころりと机から転がり落ちる。今はまだ、さみしくなんてない。
END