蜃気楼に求める馴れ合い






灰崎はビリビリと雑誌を引き裂いた。黄瀬の載っている雑誌だ。ちょうどすました顔した黄瀬がまっぷたつになるように丁寧に。ビリビリと黄瀬はバラバラになる。半分をまた半分に、それをまた半分に、半分に、半分に。最後には紙吹雪になり黄瀬に降り注いだ。

「おめでとう、リョータ。お前は完璧だよ。顔いいしモデルも人気あるし頭も俺よりいいし、スポーツ万能、なのに周りから僻まれるような立ち位置はちゃんと回避して、バスケ部のメンツからはいじられキャラ犬キャラでおいしい立ち位置獲得してる。完璧すぎだよ。俺みたいな糞みたいな彼氏ともこれで縁が切れる。せいぜい青峰と仲良くするんだな。お幸せに。ただひとつ覚えておけよ。雑誌に写ってるお前は嘘、青峰に見せてるお前も嘘、バスケ部で立ち回るお前も全部嘘だ。雑誌の切り抜きみたいに完璧な自分を張り合わせてコラージュして、そうやって生き抜いてる。賢いなぁ。ただな、今お前がしてるその目だ。その社会のゴミを見るような軽蔑にまみれたお前のその目、それがお前のたったひとつの本当だろう。俺はいつでも暴いてるぜ。その張り合わせたカンペキをビリビリに破いていつだって本当のお前を暴いてやる。カンペキにつかれたらいつだってお前のことぐちゃぐちゃにしてやるから青峰にうんざりしたら戻ってくればいいさ。せいぜい胡散臭い笑顔でも貼り付けて
な!!」

黄瀬は静かに踵を返した。そうして唾液にまみれたぐちゃぐちゃな灰崎との日々を思い出して、最低だな、と呟いて、嫌悪した自分を愛した。それでいいと思った。灰崎は自分にはそぐわない。


青峰は黄瀬の写った雑誌を興味なさそうに部屋の隅に投げた。「なんか雑誌に写ってるお前は嘘臭くて嫌だ」と言う。黄瀬はそう言って男前を気取る青峰に鳥肌のたつ思いがした。この男はきっと自分のことを頭の天辺から爪先まで理解した気になってそんな格好のいい自分に少なからず自惚れている。黄瀬がありったけの労力でもって彼に振り回されていることもひとつのステータスのように思っているに違いなかった。青峰の下で白い肌をさらしながら黄瀬は吐き気のする思いがした。それをおくびにも出さずただ青峰に「大好きっすよ」と言いながら。


「ああ、案外はやかったな。何、もう別れたの」
「別れるつもりないっすよ」
「だろうな。何?身体目的?ダイキ童貞くせぇもんなぁ」
「そう、あんたセックスしか取り柄ねーもん」
「ああそうだよリョータ、それがお前だ。打算でしかモノ見れなくて、人見下すのが何より好きでお高くとまってやがる。好きだぜそういう奴。こいよ、ほら」
「あんたうるさいんだよ。黙れよ少し」

気にした風もない灰崎に耳元でぐちゃぐちゃにしてやる、と言われて黄瀬はああこの感覚だ、と思った。ビリビリと破かれた雑誌のように自分がビリビリと引き裂かれ、暴かれ、バラバラにされてひらひら宙に投げ捨てられる感覚。いとおしいと言うにはあまりに歪で汚くて、ゴミのような感情。黄瀬はやっと静かに満たされた。ぐちゃぐちゃで、どうしようもない何かに、確かに。


end




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