うつくしい髪






女の子はいい匂いがして、なんだかふわふわやわらかくて、どうにも、守ってあげたい気分になる生き物だ。あのつやつやとしてさらさらしている髪の毛なんか、本当に男のばさばさでばきばきの髪の毛と同じ成分で構造をしているのか、本当に疑わしくなってくる。影山は、一度だけでいいからさわってみたいなぁと思うが、なかなかに触れないから、女の子の髪の毛はさらさらふわふわ、いい匂いがしているのかもしれない。手垢のついていない、なんだかピンクな雰囲気をした、その髪。影山にいつも差し入れをしてくれる女の子の髪の毛はほんとうに綺麗だった。胸のあたりまでのセミロングで、片方だけきっちり方耳にかけている。地毛が茶色いらしく、影山の真っ黒な髪の毛とは違い、日の光にあたるとキラキラと明るい色に透けた。ああきっとこの子は俺のことがすきなんだろうなぁと、童貞丸出しでその子のことをたまに思った。影山は別段その子がとても好きというほどではなかったけれど、告白されたら付き合ってもいいかと、なんだか傲慢なのことを思っていた。男なんて、単純だ。

「ねぇ、トビオちゃん、俺彼女できたよ」
「はぁ」
「反応薄いなぁ」
「だって、もう何人目かわからないんですもん」
「8人目だよ、あれ、9だったかな、大台乗っちゃったかな」
「自分でも曖昧じゃないですか」
「うん、まぁ、とりあえずできたよ」
「おめでとうございます」
「トビオちゃんも知ってる子だよ」

その台詞を聞いたとき、影山はなぜかひやりと首を撫でられるような心地がした。影山の知っている女子なんて何人も居るし、そのうちで及川に熱を上げている女子も何人か知っていた。なのに、なぜかたった一人のことだけ思い浮かべてしまっていて、影山はくらりと眩暈を覚えた。

「そ、トビオちゃんにいっつも差し入れしてたあの子」
「…そう、ですか」
「トビオちゃんに気があったのは、ほんとうらしいんだけどね。ほら、俺って格好いいじゃない。俺から言い寄ったらもうあっというまだったよ。トビオちゃんが馬鹿女に騙されなくてよかったあ」

及川は後ろから影山の肩に顎を乗せてけらけらと笑った。可愛そうにその女の子は処女でも貰われてしまってからあっさり捨てられてしまうのだろう。耳に近いところで笑われて、影山はこれ以上ないほど不快な気分になる。けれど今ここで及川を追い払ってしまったらなんだか女の子をとられたことに怒っているみたいで、それはみみっちいプライドが許さなかった。

「あの子、髪の毛綺麗でした」
「え、うん」
「それくらいしか、覚えてないです」
「そう」

及川はつまらなさそうに、影山の肩から離れた。そのときさらりと及川の髪の毛が頬に当たって、ああ、女の子の髪の毛もこれくらいさらさらふわふわしてるんだろうか、と思った。


END



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