知っているよ、そんなの
二人で入ったファミリーレストランは未知の領域だった。菅原が土曜の部活帰りに月島を誘ったのだが菅原も来たことがないというから無責任だ。クラスの誰かが菅原に「あっこの激辛担々麺が素晴らしい辛さだよ」と吹き込んだのがいけない。月島は辛いものには興味なかったが、同じように「あっこのストロベリーパフェは素晴らしい甘さだよ」ときっちりクラスの誰かの噂を吹き込まれていた。利害が一致、月島に誘いを断る理由はなかった。
席に通されると月島はテーブルのベタつきが気になった。ランチラッシュ後ならこんなものかと思わなくはないけれど、それでもいい気はしなかった。かといって菅原の前で文句をつけるのも気が引ける。しょうがないので渡されたペーパーナプキンでするりと拭いてしまったのだが目の前では菅原も同じことをしていた。菅原がくすりと笑ったので月島は赤面した。
注文を済ませると菅原が「付き合ってくれてありがとう」と言うので「いえ僕もパフェ食べたかったんで」とぶっきらぼうに返す。なんだか気まずかった。はやく注文こないかなぁと貧乏揺すりしそうになる。月島から面白い話題なんてふれるわけがない。だから菅原が適当に、「そういえば月島ってヘッドホンしてるイメージあるけどどんな曲聴いてるの」とか「最近レシーブ慣れてきたんじゃない」とか「おしゃれだけど雑誌何読むの」とかぽんぽん話題を振ってくる。それに月島はぶっきらぼうに答えるのだけれど菅原はそこからさらになにかしらを拾って話題を広げていくからすごい。まるでくしゃくしゃに丸められたティッシュペーパーのシワを丁寧にのばしていくように。こんなに広がるものなのかと月島は感心してしまう。
少しするとウェイトレスのそんなに可愛くもないお姉さんがにっこり笑って、「こちらご注文の担々麺とパフェでございます」と品物を持ってきた。そうして月島の前に担々麺をとんと置き、菅原の前にパフェをことんと置いて、「ごゆっくりどうぞ」と丸めた伝票だけ残して去っていった。菅原は苦笑しながら「俺甘党に見えるのかな」とパフェを月島の前に置く。「僕は辛党に見えたらしいですよ」と月島は驚くほど真っ赤な担々麺を菅原に差し出した。
「ウェイトレスのお姉さんかわいかったね」
「そうですか?」
「あれ、じゃあ月島はどんな子がタイプ?」
「年上の泣きボクロがセクシーな美人さんです」
「俺は生意気で気が強そうな眼鏡っ子かな」
くすくす、くつくつ、喉のおくで笑いが音をたてる。パフェの噂どおりなねっとりと口に残る甘さが素晴らしいなぁと、月島は思った。
END