男の子だって面倒くさい
「赤ちんはさ、一日どれくらい寝てるの?」
紫原はふと気になって赤司に尋ねた。彼は毎朝走っているらしいし、学校の課題も全部提出しているし、さらにはバスケ部の練習メニューまで組み立てているらしかった。紫原が家に帰ったらまず夕飯を食べて、テレビを見ながらお菓子を食べて、お風呂に入るころにはもう一日が終了しようとしている。学校の課題は大抵誰かにうつさせてもらうか、ばっくれるかの二択だし、朝は辛くてぎりぎりまで起きられない。とても赤司のように色々する時間はなかった。
「4時間か、少なければ3時間」
「短いねー。眠くなんないの?」
「ならないよ。もう慣れたから」
じゃあ慣れるまではどうだったの、と思ったが、べつに聞きたいとは思わなかった。そもそもそれにいつ慣れたのかすら、想像がつかない。朝が辛くてぎりぎりまで寝てしまう赤司、ぐだぐだとテレビを見る赤司、誰かに課題をうつさせてもらっている赤司、どれもこれも創造すらできなかった。赤司は多分紫原とは違う時間枠を生きている。彼の一日は紫原で言う三日くらいの密度があるようだった。
「ちゃんと寝ないと背ぇのびないってテレビでやってたよ」
「お前が大きすぎるだけで、僕は平均よりずっと背が高いんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。バスケをするにも困っていないだろう」
「…まぁ」
紫原はそういう意味じゃないんだけどなぁと、ぱりぱりお菓子を食べた。そんなに少ない休憩で、赤司は毎日気の遠くなるような密度の中を生きている。それが、少しだけ心配なような、疲れてしまわないのかなぁと、思ったのだ。けれどそれを伝えるすべが紫原にはなくて、伝えたところで赤司はなんにもかわらないだろうし、変える気もないのだろう。
「あ、お菓子なくなっちゃった」
「そんなに食べると太るぞ」
「俺太ったことないし」
「糖分もだが塩分も身体に毒だからな」
「でも俺お菓子食べなきゃ死んじゃうよ」
「人間そんなことでは死なないよ」
「俺人間じゃないかもしれない」
「…まぁ人間離れはしているが」
紫原は赤司の言葉なんて聞いていなかったように、違うお菓子の袋をばりりと開けた。赤司はそれをなんだか嫌なものを見るような目をして、見つめている。ああ、男の子だって、面倒くさい。
END