誰もいない体育館に鳴り響く試合終了のブザー





卒業式が終わって、黄瀬は女の子にもみくちゃにされて結局制服の第二ボタンどころかワイシャツのボタンまですべて奪われてしまった。まだまだ寒い時期だったのでインナーを着ていたが、それがなければただの変態に間違われているところだ。みんながみんな親と一緒に帰宅したり、友達とどこかへ遊びに行ったりしていたが、黄瀬はふと、体育館へ行きたくなった。もしかしたらバスケ部の誰かしらがいるかもしれないと考えたからだ。けれど黄瀬の予想を裏切って、体育館はがらんとしていた。三月の肌寒さがここだけ一層ひどいような気さえする。感慨深げにあたりを見回すと、コートの隅にバスケットボールが転がっていた。部員が片付け忘れたのか、それとも誰かが先にここにきたのかもしれなかった。最後までなんだかすれ違い続けてしまったような気がして、少し切ない。黄瀬はそのボールを拾い上げて、ダムダムと遊びのドリブルをした。しんとした体育館に、大きく鳴り響くその音が心地いい。ああ、この音だ、と黄瀬は思った。そういえばバスケットボールに触れるのは久しぶりかもしれない。海常高校にはバスケの推薦で受かっていたから、それなりに練習はしていたのだけれど、ここ一週間くらいはロードワーク程度だった。それぞれがそれぞれ、てんでばらばらの進路に進む。誰がどこに行くのか程度は把握していたけれど、何を想ってそうしたのかまでは、わからなかった。けれどただ、この体育館で、あの六人でバスケをすることがもうないのだと思うと、とたんに寂寥が溢れだして、収集がつかなくなる。レイアップを何回か繰り返し、不意に、黄瀬はフリースローラインに立った。そうして、ふと、青峰のことを思い出す。部活が終わってから、青峰と顔をあわせる機会はめっきり減ってしまった。紫原と違いクラスも別々なので当たり前なのだが、案外平気にしている自分がなんだか不思議だった。ダムダムと二回ボールをついて、ルーティンにはいる。そこで、ひとつ、決めることにした。このシュートが外れたら、この恋も終わりにしよう、と。ずっとずっと胸に抱え続けていた想いを、どこかに置いてしまえるチャンスかもしれない。どうにもこの恋だけは、かないそうにない。けれど、本気で捨ててしまいたいと思えるほど、黄瀬は青峰を忘れられそうにはなかった。フリースローを外すことは滅多にない。それこそフェイダウェイしながらでも、フックでも決められる自信があった。だから、本当はあきらめる気なんて、さらさらなかったのだと思う。

気を取り直して、またダムダムと二回ドリブルをして、ルーティンをした。それから、いつものように構えて、いつものように、シュートした。けれど、なんだかうまく力が乗らなくて、ボールが手の中で空回りする。あ、と思った時にはリングにはじかれて、ボールはよく響く音を立てながら、何度かバウンドした。そうして、最後にころころと転がって、元あった位置まで、転がっていく。黄瀬は茫然として、しばらくフリースローラインから動けずにいた。頭の中で「あ、赤司っちに怒られる」と考えたが、そんなことはないと打ち消し、「緑間っちに馬鹿にされる」と考え、それも打ち消し、「紫原っちに笑われる」と考え、それも打ち消し、「黒子っちに冷めた目でみられる」と考えて、それも打ち消し、「青峰っちに」と考えたところで、ぷつりぷつりと視界がちぎれた。誰もいない体育館で、ひとつの恋が終わろうとしていた。静かに、静かに。


END



-->
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -