叫びだしたい午前3時





影山の部屋で真夜中の静けさを全く無視した着信音が鳴り響いた。もうすでにベッドの中に入り微睡んでいた影山はそれにびくりと飛び起きる。設定したアラームかと思ったが、枕元の携帯を開いてみると及川からの着信だった。設定のせいで携帯を開くと同時に通話状態になってしまうので、もう聞かなかったことにはできなかった。眠い眼を半分とじかけながら「はい」とぶっきらぼうに電話に出る。

『あ、トビオちゃん?俺俺、俺だけどさー』
「…それ、詐欺みたいなんでやめたほうがいいですよ」
『そうかな。てかなんか眠そうな声してるね。寝てた?ごめんねー』

そういっておいてこちらを気遣う気はさらさらないくせに、と影山は舌打ちをしそうになる。時計を確認してみると午前2時になるあたりだった。影山がベッドにはいってちょうど1時間半たっている。

「なんの用ですか」
『んー?なんか眠れなくてさ。話し相手になってよ』
「俺は眠いです」
『えートビオちゃんくらいしか電話する相手いないんだけど』
「夜中に叩き起こしてもかまわないいたいけな後輩の間違いじゃないですか」
『あ、わかっちゃう?俺あんまり部員に嫌われたくないんだよね』
「俺も部員ですが」
『だってトビオちゃんだし』

上瞼が下瞼と仲良くしたがっている。影山もはやく夢の中へ旅立ってしまいたかった。なのに及川はそんなのは知ったことかとどうでもいいことをべらべら喋り続けては影山に同意を求めてきた。昨日の晩飯がどうだったとか、最近読んだ雑誌の話とか、べつに影山でなくともいいどうでもいい相談だとかをべらべらべらべらべらべらべらべら。影山は「ええ」とか「はあ」とか「そうですね」をローテーションさせて、どうにかこうにか意識を保っていた。内容なんて右から左に受け流しておけばいい。

だいたい1時間が経過したあたり、やっと及川は『なんか眠くなってきたなー。こんな夜中に電話付き合ってくれるのトビオちゃんくらいだよ。じゃあ、ばいばい』と一方的に通話を遮断した。影山の携帯からはツーツーとそれを知らせる音が鳴り響く。

やっと終わった、と思い、また眼を閉じるが、先ほどまで感じていた眠気はどこかへ飛んでいってしまっていた。影山はしばらくじっと眼を閉じていたが、どうにも寝付けなくて、携帯を開く。なんとはなしにぼんやりと明るい画面のアドレス帳をひらいてみるけれど、こんな眠れない夜に電話できる相手のアドレスなんて、影山の携帯には存在しなかった。


END




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