はじまることなく毎日終わる恋
自分たち以外誰もいない教室に西日が差しこんで、すこしまぶしい。一つの机を挟んで、俺は大地の向かい側に座っていた。机は大地の方を向いているので、俺の脚は時折机の鉄パイプに当たってカツンコツン、ガタガタと音を立てる。今後の部活動の打ち合わせをしていたのだけれど、大体のことはもう大地が組み立ててしまっていて、俺はそれの少し抜けている部分を補ったり、日程の確認をするくらいしかやることがなかった。副主将なんて大抵の部活で名ばかり役職になってしまうものだけれど、この部活ではそれがあんまりにも顕著だった。前の副主将からは俺らの仕事なんて主将の愚痴を聞くくらいだよ、と引き継ぎをされたのだけれど、俺は大地の愚痴を聞いた試しがない。指導者にも恵まれず、大地は他の主将よりずっとずっと重い負担を背負っているはずなのに、俺は彼の口から誰かへの不満や、陰口がこぼれ出てくる様を想像することすらできない。できすぎた人間だった。けれど時折、すこし疲れたような表情をしてコートの隅に立っていることがあることを、俺はちゃんと知っていた。けれどそれすらも本当に稀で、多分誰も気づいてはいない。それがとても切なかった。大地が背負い込んでいるぶんの半分でもいい、それよりずっと少なくてもいい、少しくらい、俺に分けてくれたっていいじゃないか。
「こんなもんかな」
「ああ、そうだね。いつもお疲れ様」
「どうした、改まって」
「いや、なんとなくね。ほんとうに大地はすごいと思うよ」
「よせよ」
がつん、と脚がまたパイプに当たった。手を伸ばせば簡単に届く距離にいるのに、なんだか大地がとても遠く感じた。
「みんな、わりと大変だと思ってくれてるみたいなんだけどさ、俺は今が本当にたのしいよ」
西日に照らされて、大地の頬は穏やかな色に染まっていた。まぶしいとすら思う。「今が一番楽しい」と、大地は確かめるように、もう一度言った。
「たしかに指導者には恵まれていないかもしれない。けど、今年は面白い一年が入ってきて、旭も、西谷ももどってきて、歯車みたいなものがどんどんかみ合っていってるような気がするんだ。部内の雰囲気も悪くないし、やることは山積みだけど、充実してる」
おまえもいてくれるしな、と言って大地は笑った。やめてくれ、と思う。そんなことを言われてしまったら、俺はもう先に進めなくなる。
「ああ、そろそろ部活いかないと」
「え、ああ、そうだね」
がたんと大地は立ちあがった。エナメルのスポーツバッグだけ肩にかける。その時の腕の筋肉がきれいだなあと少し見とれてから、頭を一つ振った。ガツンとまた、脚がパイプにあたる。大地が毎日丁寧に引き直しているラインが、たしかにそこにあった。
END