You can take a horse to the water,but you cannot make him drink.






結局金曜日の夜、有利は村田に腕をひかれてオカマバーへ行くことになってしまった。はじめゲイバーと聞いていたから有利はあまりいい顔をしなかったのだが、それはコンラートの冗談で、本当は女性客が多めの正真正銘、かどうかはわからないが、オカマバーらしい。彼の冗談はわかりづらくていけない。さらには冗談だと思っていたことが実は本気だったとかもあるからたちが悪い。とにかくコンラートに色々と詳細を聞いて、下調べをした。予約は不要とのことだったが、いちおうサービスしてもらうためにコンラートからヨザックに連絡を取ってもらった。そうしたところ、普段はだいたい6000円くらいの飲み代を上限3000円までまけてくれるのだとか。なんか申し訳ないな、と有利が呟くと、コンラートが「ああ、あそこの店は飲み代の他に基本料金っていうのがあってね、まぁヨザックや他のボーイさんがお相手してくれる料金みたいなもんなんだけど、それが2500円くらい。飲み放題もなくて、そこから追加でワンドリンク500円。でも500円って言ったってそんなに量があるわけでもないしいい酒でもないから、まぁ3000円でも充分利益は出てる。だから気にしなくていいよ」と黒い笑顔で。なんでそこまで詳しいんだろうとは思ったが、バイトしてる店が近いせいもあるだろうし、知り合いがやっているということはもしかしなくても常連なのかもしれない。言うほどぼったくりバーでもなさそうだが、有利にはその基準がいまいちよくわからなかった。

メモしてもらった場所へ行くと、あやしげなサーモンピンクの看板に「タイムリー・あらいやだ!」と書いてある。何度聞いても座りの悪い店名だ。なんでそんな名前なの、と聞いたところコンラート曰く「オカマっぽいでしょう」と。じゃあタイムリーってなんだ。どこがタイムリーなんだ、と思わなくもない。外からでもわかるピンクな雰囲気に、有利が入店をためらっていると、村田が「どうしたの、はやくはいろうよ」とぐいぐい背中を押してくる。ああ、自分が先に入るわけじゃないのね、と理不尽に思いつつ、有利はドアの取っ手を恐る恐る引いた。

カランコロンという音がしてドアが開くと、扉の向こうは別世界だった。店内はわりかし狭く、二十人はいるか入らないかというカウンターバーで、真っ赤なテーブルが店内を縦断していた。ヨザックはけばけばしい化粧をしてそのカウンターの中で「いらっしゃーい!まってたわよう!」と語尾にハートマークをつけそうな勢いで手を振っている。有利はおっかなびっくり勧められた席につく。スツールは高めで、床から爪先が離れてしまいそうだった。せめてデューターくらい足が長ければ格好がつくのかもしれない。ざっと見まわしてみたところ、他に客はおらず、今のところ有利と村田だけだった。店員はヨザックと、金髪の美少年が一人。

「って、ヴォルフラム!?」
「ユーリ!?」

その金髪の美少年に見覚えがあると思ってよくよく見てみたならば、彼はコンラートとデューターの弟で、有利と同い年のヴォルフラムだった。たしか金持ちが行く私立のおぼっちゃま大学に進学してたが、たしかその大学はこの近くだ。だからといってこんなところでバイトしているとは夢にも思わない。

「えー久しぶりだなぁ。近くにいるっていうのは聞いてたんだけどさ。てかなんでこんなところでバイトしてんの?」
「コンラートの紹介だ。時給もよかったし、ヨザックとはそれなりに面識があったからな。少し前から働いてやっている」
「やっぱコンラートかぁ…」

有利が雑談しているうちに村田はさっさとドリンクを決めてしまったらしい。ちょいちょいと肘で小突いてはやくはやくとせかしてくる。かといって有利はカクテルの名前を見てもチンプンカンプンだし、焼酎やウィスキーは飲んではいけないものとしてカウントされていた。だから結局、「村田と同じの注文しといて」と投げやりになる。少し緊張していたのかもしれなかった。

「じゃあ生二つ」

村田の注文を聞いて、有利は少しだけ「しまった」と思った。有利はビールが飲めない。飲めなくはないかもしれないが、あまり好きではなかった。かといって任せてしまった手前撤回してもらうのもなんだかなぁと、結局腹をくくることに。5分もしないで二人の前にはコトンとビールが置かれる。ヴォルフラムが注いだらしいが、泡の分量が完璧だった。有利は昔父親が「ビールの泡はな、7対3がいいんだ。これが一番うまい」といってノンアルコールビールを飲んでいた記憶がある。

「渋谷、乾杯」
「え、ああ、乾杯」

なににだろう、とは思ったが、お酒を飲む時は大抵そうするらしい。デューターのときはやらなかったけどなぁと有利はぼんやり考えた。村田はごくごくと吃驚するほどいい飲みっぷりで、ぷはあと口を離したときには中身が半分になっていた。おいおい飲みすぎるなよ、とは思ったが、彼のことだから大丈夫だろう。有利も早くビールを空けてしまいたくて、自然とペースが速くなった。

ヨザックはこないだとは打って変わってくねくねと身体をくねらせる独特のオカマくさい動きをしていた。以前は別にそんな印象は受けなかったのに、衣装と化粧でどうにでもなるものだなぁと有利は思った。しかし二の腕が逞しすぎるだろう。今日のヨザックは何故かチャイナドレスだったが、むき出しの二の腕は有利の二倍くらいあるんじゃなかろうかという太さで、ひしめくような筋肉に包まれていた。そういえばガテン系の仕事をしていたんだっけ、とコンラートの話を思い出した。とにかく、彼の話はいちいち面白い。こないだ駅のホームで男にナンパされたとか、その男の額がやけに広いとおもっていたらヅラだったとか、ゲイとオカマは違うだとか、とにかく有利は自然と話に引き込まれていった。ちょいちょい入るヴォルフラムの突っ込みのようなボケのような天然発言もおかしかった。

有利は飲みやすいカクテルと村田に見つくろってもらい飲んでいたが、どうやらその大半はヴォルフラムが作っているらしい。レシピが全部頭に入っているのだそうで、すごいなぁと有利は関心するばかりだ。自分もそんなふうに色々とカクテルが作れるようになったらいいなぁと。そうしたらこないだのお礼にでもデューターに何か作ってあげよう。ここにいるとあっという間に時間が過ぎていくほど楽しいし、ここで働くのも悪くないかもしれない。とろりとアルコールに溶けていく頭の中で、有利はぼんやり、そう思った。


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ヴォルフラムを無理やり出してみました。
やっぱり絡ませたいよねってことで。



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