十九日目




青峰と黒子はひとつだけ講義がかぶっている。こないだは青峰のせいで遅刻したが、黒子は毎週ちゃんと講義に出席し、きっちりノートを取っていた。出席点重視の講義とはいえ、よい成績をとるに越したことはないので、テスト対策も万全だ。噂によるとこの講義の教授はたいそう気まぐれな上に意地悪で、シラバスには期末レポートもしくはテストと表記されている。前年度は期末試験があったが、その前は期末レポートを課したうえに試験までしたらしい。黒子はこの講義の内容に興味があったのでしかたないかと思い受講しているが、青峰がなぜこんな面倒な講義を受けているのかはわからなかった。もしかしたら黒子が受けているからノートや代返を頼めば楽ができると考えたからかもしれない。けれど黒子はそんなに甘くなく、代返なんてもってのほかで、毎週この講義の日だけはきっちり青峰をたたき起していた。けれど青峰は講義に出ても寝てばかりで、ろくにノートすらとっていないどころか、ペンを持っている日も稀だ。黒子と青峰は特に離れて座る理由もないので、大抵真ん中らへんの席に並んで座る。あまり後ろに座ると教授の目が怖いし、あまり前だと意識の高い学生がそこらじゅうにいてなんだか居心地が悪い。青峰はいつも目につくところで寝てばかりいるので、すっかり教授に目をつけられてしまっているようだった。あまり青峰と一緒にいない方がいいかもしれない、と黒子はかんがえることもしばしばだったが、彼の影の薄さからしてそれは杞憂だろう。

しかし今日の青峰はめずらしく寝ていない。寝ていないどころかペンを握っている。さらにはノートを開いて、それに熱心に何か書きとめていた。そんなに今日の内容は面白いだろうかと黒子はふと疑問に思った。別に内容は前回の続きで、変わり映えにないものだった。たしかに黒子にしてみれば興味深い話だったが、青峰が熱心にメモをとる内容かと言うと、首を振らざるを得ない。今日は雨ですかね、と黒子が集中し直そうとした時、青峰がこんこんと机を叩いた。なんだろうと黒子が青峰を見ると、彼はにやにやしながらノートを差し出してくる。開かれたそこには下手なイラストが描いてあり、どうやらそれは人物のようだった。そして青峰は赤ペンでその横に「あかし」と書き加える。たまらず黒子は吹き出しそうになった。なぜなら赤司らしきイラストの横にこれまたデフォルメされたハサミが描かれていたからだ。顔の特徴は別にとらえていないのだが、カラーリングとハサミで見事に赤司が表現されている。それがなんだかシュールで、おかしかった。ただしこれがもし本人に見つかったら青峰の命はないだろう。なんたる命知らず。

青峰はまた熱心にノートに落書きをはじめた。どうせ次は緑色のペンで眼鏡を描いて「緑間」とか言うのだろう。予想はついている。すこしするとまた同じように青峰がちょっかいをかけてきた。黒子がノートを見ると、やはり緑色のペンで眼鏡がかいてあった。黒子がわかってましたよ、という雰囲気を出すと、青峰はその絵の横に「本体」と書いた。黒子は我慢できずに盛大に吹き出す。しかし誰も気づかぬようで、彼のミスディレクションはこんなところでも役に立っていた。

そのあとも青峰は黄色のペンでよくあるウンコの絵を描き「きせ」と言ってきたり、意外に上手な紫色のトトロを描いて「むらさきばら」と言ってきたり、とにかく黒子はそのたびに笑いを必死にこらえなくてはならなかった。あっという間にその日の講義は終わってしまったのだが、青峰のせいで全く集中できなかった。ノートも板書のぶんくらいしか書けていない。

「青峰君のせいでノートがとれませんでした」
「けっこうおもしろかったろ?」
「これきりにしないとそのノート赤司君に見せますからね」
「それはやめろ」
「そういえば、青峰君僕は書いてくれないんですか?」
「テツはなんにも描かないノートに、慣れれば見えますとか書いときゃいいんだよ」
「ひどいです」

黒子は我慢していたぶん、少し多めに笑った。

「じゃあ僕が青峰君を描く時はノートいっぱいを真っ黒に塗りつぶさないといけないですね」
「ひどいのはどっちだよ」
「お互い様です」

さて来週は今週聞かなかった分真面目に講義を受けなければいけないな、と黒子は思った。けれど今日の講義はこれまでで一番面白くて、興味の持てる内容だったかもしれない。そう思ってしまう自分がなんだかおかしくて、黒子はまたひっそりと笑った。


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次の週は青峰が筆談を持ちかけてくる。



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