十六日目





料理は所詮化学だ。いろんな食材が混ざり合って、溶け合って、化学反応を起こす。そうするとやっと人が食べておいしいと思えるものになる。調味料はそれを補助して、盛り付けは視覚から人の感覚に作用する。あとは経験だ。料理本一冊ぶん、すべての料理を三回ずつでも作れば嫌でもそれなりに料理はできるようになる。実際緑間はそうしてレパートリーを増やし、今日に至る。

「今日もはやいね」

今朝も朝食を作っていると、ランニングを終えたらしい赤司が戻ってきた。汗こそかいているが、息が乱れていないあたり彼らしい。

「お前も十分はやいのだよ」

作りかけの味噌汁に味噌を溶かしながら答える。人数分鮭を焼いて、ほうれんそうのおひたしをつくり、冷蔵庫から晩のきんぴらごぼうを取り出す。残り物を活用しないと時間がない朝は辛い。緑間の様子をしげしげと見つめてから、赤司は「そういえば」と何か思い出したように呟く。

「真太郎は中学まで料理が苦手じゃなかったか?」

ちりちりとグリルの中で鮭が焼かれていく音がする。

「…お前はくだらないことを覚えているのだよ」
「ああ、やっぱり。三年でここまでできるようになるものなんだね」
「人事をつくしたからな」
「練習したのか。なんでまた。別に高校までは必要なかったろう」
「…ろう」
「え?」
「…お前は、できただろう」

赤司はその言葉に目を見張った。たしかに赤司は中学の頃からなんでもそつなくこなしていた。それは料理も例外ではなく、一人暮らしができるレベルのレパートリーではなかったが、親が一日二日いなくてもどうにかなるレベルの料理はできていた。だからといって緑間がそれに張り合ってくるとは夢にも思わない。

「お前に何かひとつくらい、勝っておきたかったのだよ」

緑間はくるりと後ろを向き、茶碗に炊きたてのご飯を盛り始めた。照れているらしい。

「…真太郎はすごいね」
「人事を尽くしたまでだと言っただろう」
「確かに料理の腕では負けるかな。もっと僕も練習しよう」
「のぞむところなのだよ」

おいしい朝ごはんの香りがキッチンいっぱいに充満して、それが廊下にもするすると抜けていく。そろそろこのにおいをかぎつけた他のルームメイトが起きだす時間だ。


END


公式設定で緑間は料理が苦手だということを知って「やべ」ってなった結果の産物ですはい。


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