十四日目





黄瀬の帰宅はわりと深夜になりがちである。青峰、黒子、紫原は基本的に日付が変わる前に眠りにつくので、そんなとき黄瀬が顔を合わせるのはレポートに追われている緑間か、予復習をしている赤司くらいだ。高校の時はわりと寂しい思いをしていたので、夜遅くても人がいるというのは新鮮で、なんだかこそばゆい思いがした。今日も家に帰ると廊下はしんとしていて、誰も起きていないのかな、と思っていたらキッチンから明かりがもれている。

「ただいまっす」
「随分遅いな」

キッチンにいたのは緑間だった。いつものようにコーヒーをドリップしている。キッチンにはコーヒーのいいにおいが充満していた。緑間がよく飲むのはブルマンサントスだが、最近赤司が別にモカブレンドを購入している。

「俺もホットミルク飲みたいっす」
「しょうがないのだよ」
「ありがとうっす」

そういえば、黄瀬は撮影用の衣装のままだった。今回は雑誌の量産型の衣装とは違い、ポスターの撮影用衣装だったため黄瀬のオーダーメイドで、そのため撮影後にそのまま持ち帰ることが許可されたのだ。わりとシックなジャケットにストール、スラックスもぴったりと黄瀬にラインに沿っている。シンプルなのだけれど、細部や生地に相当なこだわりが感じられ、撮影用にしては華美でないため私服として重宝しそうだ。そういえば黄瀬は毎日わりとファッションには気を使い、いつも流行を意識したコーディネートをしているのだが、赤司はともかく他四人は目も当てられないような服装の場合が多々ある。もとの顔がいくらよくとも台無しな四人のコーディネートについて、いつも黄瀬はやきもきしていた。今日の緑間も、学校に行ってそのままなのだろう、ありきたりな紺色のシャツにオフホワイトのスラックスだった。似合ってはいるのだけれど物足りない。

「緑間っちももっとかっこいい服着ればいいのに。顔も悪くないし、眼鏡男子だし、背も高いから女の子がほうっておかないっすよ」
「興味ないのだよ」
「そんなこと言わないで…あ、この服とか緑間っち似合いそう!ちょっと交換しようっす!」
「やめるのだよ!」

黄瀬が強引に緑間の服を脱がし、自分の服を着せようとするのだが緑間は嫌がり、あらんかぎりの力で抵抗する。すると黄瀬もムキになり、緑間もムキになり、しまいには二人して床に倒れこんでしまった。バターンという大げさな音が響き、緑間が黄瀬の下敷きになる。これぞ好機とばかりに黄瀬は緑間のシャツを引っぺがし、ベルトに手をかける。その時である。

「おい、うるさいぞ」
「もう目ぇ覚めちゃったよー」
「黄瀬君うるさいです」
「うるせーんだよ!」

キッチンの扉があき、目をこする他のメンバーが顔を出した。と、同時に、全員が全員びしりと音を立てて固まった。それもそのはず、みんなが目にしたのはあられもない姿で床に押し倒された緑間と、それに馬乗りになったこちらも乱れた姿の黄瀬だったからだ。全員が全員これはいけないところに邪魔をした、という顔になり、「そういうことは各自の部屋でやってくれ」「黄瀬ちんみどちん不潔ー」「いや…なんか…悪かったよ」「静かにやってください」と言い残してぞろぞろと各々の部屋へ引き揚げていく。

「ちょ、誤解っす!」
「何を言っているのだよ!」

二人の弁明むなしく、四人はこれだから、とぱたんと部屋の扉を閉める。残された二人はなんともいえない顔になった。

「もとはと言えばお前のせいなのだよ!」
「緑間っちが抵抗するからっす!」
「お前が無理やり脱がせようとするから悪いのだよ!」
「だって緑間っちが!」

この会話すら誤解を助長させているとは気づかずに、二人はギャーギャー言いあうのだが、赤司がもう一度ハサミを片手に「うるさいよ、二人とも」と言うとおとなしくなった。キセキの夜は今日も騒々しくふけてゆく。


END

リクエストいただいた黄瀬と緑間でみんなに誤解されちゃう話ですはい。
もう少し続きます。



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