これは恋の味ですか






女の子の髪の毛は、きっと紫原の気が遠くなるような手間暇がかけられていて、だからあんなにつやつやさらさらしているのだろう。さわったらふわふわして、いい匂いがして、するりと指のあいだをすり抜けてしまうんだろう。触りたいなぁとは思うけれど、そんなことをしてはいけないと、紫原はちゃんとわかっていた。男の人にはわからない苦労が、そこにはあるからだ。

「さっちんの髪はきれいだよね」
「むっくんの髪もきれいだよ」
「さっちんはいい匂いするね」
「むっくんはお菓子の甘い匂いがするよ」
「さっちんは…うーん、さっちんってすごいね」
「むっくんもすごいよ」

紫原はあきらめてさくさくとお菓子を食べた。桃井はきっと紫原の誉め言葉をひとつだって受け取ってはくれない。きっとそうしないと女の子の群れの中で生きていけないのだ。女子はすごく大変なんだろうなぁと紫原は思った。

「そうだむっくん、飴あげる」
「うん、ありがとう」

桃井はポケットから苺味のキャンディを取り出して、紫原にわたした。包装から味まで女の子をぎゅっと詰め込んだようなたたずまいをしている。こういうのもきっと武器なのだろう。桃井はきっと頭のてっぺんから爪先まで女の子という鎧で武装して、ちゃんと自分を守っている。なんて健気で、面倒くさくて、したたかなんだろう。きっと桃井はひとりでみんなと生きていくすべをちゃんと持ち合わせている。紫原はすごいなぁとしきりに感動してから、飴をぱくりと口に入れた。びっくりするほど甘ったるくて、眠くなるような味がした。


END




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