消費期限つきの愛





赤ちんはいつも「好き」とか「大好き」の変わりに、「愛してるよ」という言葉を使う。俺にとってその言葉の響きはなんだか重苦しくて、貰うぶんにはまぁいいのだけれど、あげるにはなんだかそぐわないような気持ちがした。だから俺はいつも「大好き」と赤ちんに言う。すると赤ちんはいつも「僕も愛しているよ」と言う。「僕も」というからには「大好き」と「愛している」は同じ意味なんだと思う。小さな違いはあるかもしれないけれど、それはまぁ、きっと些細なことなのだ。けれど俺はひっそり、呟いてみる。赤ちん、愛しているよ。なんか違う。やっぱり違う。俺はもしかしたら赤ちんを好きなんだけど、愛してはいないのかもしれない。同じように赤ちんは、俺のことを愛してはいても、好きではないのかもしれない。

部活が終わると、赤ちんはいつも最後まで残って日誌を書いている。俺はそれを待っていたり、待っていなかったりする。今日はなんだか待っていたい気分だったから、赤ちんの後ろでさくさくとスナック菓子を食べていた。俺がさくさく食べていると赤ちんはかりかりとシャープペンシルを走らせる。さくさく、かりかり、さくさく、かりかり。会話がない。なんだか眠くなってきたあたりに、ぱたんとおとがした。赤ちんが日誌を閉じた音だ。

「さぁ、帰ろうか」
「うん」

赤ちんにとって俺が赤ちんを待っていることは当たり前のことみたいだった。俺にとって俺が赤ちんを待っていることは別に当たり前ではなかったのだけれど。それが言葉の違いにも繋がっているのかもしれない。愛してると相手が一緒にいるのは当たり前に感じるのだろうか。好きなら、別に一緒にいなくてもいいのだけれど。

「赤ちんはさぁ」
「なに?」
「俺がいないといけない?」

赤ちんは少し考えた。そうして、「そうだね、そうかもしれない」と言った。そして「…敦は僕がいなくても大丈夫なんだろうね」と言った。僕は実際、そうだろうなぁと思った。けれど、なんだかそう答えてしまったらいけない気がして、「そうでもないよ」と言った。赤ちんは少し寂しそうな顔をして、バッグを肩にかけた。

「敦、愛してるよ」
「どうしたの?赤ちん」
「なんとなく」
「そう。俺は赤ちんが大好きだよ」
「そう」

いつかきっと、この「愛してる」と「大好き」の間にどうしようもなく深い溝ができてしまうんだろう。いつかいつか、噛み合うものも噛み合わなくなって、俺と赤ちんはそぐわないものになってしまう気がした。それはとても寂しいものなのかもしれない。けれどそれをあんまり寂しいと思わない自分もいて、それが不思議だった。なんだか赤ちんに「大好きだよ」と言うたびに俺の感情はどこかすり減っていって、赤ちんが俺に「愛してるよ」と言うたびに、赤ちんの感情は俺に降り積もっていく。俺はそれがあんまりうれしくない。すり減ったところに赤ちんの気持ちが降り積もって、俺の気持ちなんていつか見えなくなってしまうような気がするからだ。俺は本当は赤ちんをどう思っているんだろう。ちゃんと考えてみると、わからないような気がして、少し怖くなった。

俺はごまかすように、さくさくとお菓子を食べる。いつのまにかお菓子は最後の一個になってしまっていた。そのお菓子をじっとみつめながら、俺はいったい、あと何回赤ちんに「大好き」と言えるのかなぁと考えた。ぱくり。


END




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