九日目





青峰が朝ヘアワックスを手に取ると、それはもう空っぽで、そういえば昨日で使いきってしまったのだったと思い出す。近々ドラッグストアに行かなければならないのは面倒だった。

「黄瀬、ワックスかして」
「いいっすよー」

「なんならセットしてあげるっす!!」と黄瀬は頼んでもいないのに自分のヘアワックスを手に取り馴染ませると青峰の髪をセットした。しっかり根本からワックスをもみこみ、寝癖を誤魔化し、たたせるところをたたせると、青峰の髪でもいつもより幾分かきまった髪型になる。

「なんかこのワックス匂いきついな」
「感想はそこだけっすか」

普段青峰が使っているワックスはいかにもメンズというすーすーする匂いのものだが、黄瀬のワックスはなんだか女子の好きそうな柑橘系の匂いがした。けれど髪の毛を触ってみるといつもよりベタついた感じがなく、わりかしさらさらしているのにきっちりセットされている。不思議なものだ。ついでに、と黄瀬がかけたスプレーの効果か形も崩れにくい。さすがはモデル。

まあかたちが整えばなんでもいい、と青峰は礼もそこそこに、さっさかと家を出た。今日は黒子と講義が被っている。こないだは起こしにきたくせに、今日はさっさと自分だけ先に出てしまっていた。そういうところマイペースなのがなんだか腹立たしくもあったが、それが黒子でもある。青峰は黄瀬がせっかくセットしてくれた髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きまわしながら、大学へと向かった。今日は遅刻しないで済みそうだ。



「今日の青峰君、なんだか黄瀬君の匂いがしますね」

一緒の講義で、黒子がふと鼻をひくつかせた。黒子はこういう変に鋭いところがある。青峰はまたぐしゃぐしゃと髪の毛をいじって、口をもたつかせる。

「あー…ワックス借りたから」
「そうなんですか。なんだか雰囲気が違ったので。セットも黄瀬君が?いささか崩れてますけど」
「頼んでねーのにな」
「そうですか。まあ、いつもより男前ですよ」

からかうように黒子が言った時、ちょうど教授が講義室に入ってきた。言い返す間もなく講義が始まる。こないだの遅刻で青峰は教授に目をつけられていたので、おとなしくしているしかなかった。けれど講義中、髪をさわるたびになんだかふわふわといい匂いが漂ってきて、これが黒子の言う黄瀬の匂いなのかと思うと、なんだか落ち着かない気持ちになった。はやくワックスを買わないといけない。


END



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