何時になったら君に触れられるのだろうね






白い錠剤をタブレットのように噛み砕く静雄は少しだけ頭がおかしかった。噛み砕いたら絶対に苦い。現に静雄は苦々しいことこの上ないという顔をしていて、その唇を舐めるだろうトムにとってみてもあまり好ましい行為ではなかった。静雄はきっちり一時間待ってからベッドの上に乗った。怠惰が纏わりついたような仕草で服のボタンを外してゆく。トムはそれを手伝いながら、静雄の唇を舐めた。もう苦味なんてものは残っていない筈なのにどこか不快な味がするようだった。別に静雄が気に入らないわけではないが。静雄が飲んだのは筋肉弛緩剤だった。以前痛みに耐えかねてトムをぶっ飛ばしたことのある静雄は、以来セックスのきっかり一時間前に弛緩剤を飲む習慣をつくった。だんだんと薬になれてゆく身体は少しだけ彼を不安にさせたが、たいした問題ではなかった。通常の二倍の量、錠剤を服用すると静雄はただのヒトになる。体に力が入らなくなり、トムを目一杯拒絶してもそれは女の力よりも弱かった。静雄は全力でトムを抱き締めても彼の背骨が折れてしまわないことが何より嬉しく、同時になぜか空恐ろしかった。

「あ、トムさん、もう」
「いや、もうちょっと馴らした方がいい。後が辛いから」
「早く」
「…後で文句言うなよ」

ぬるりとローションが纏わりついている。汚いものをこすりつけるように、トムは指に付着しているそれをシーツで拭った。静雄はもう意識も朦朧としていて、さっさとやって仕舞わねば寝てしまいそうだった。薬のせいだ。瞼の筋肉まで緩めやがる。トムのペニスを迎えながら静雄は強烈な痛みと快感にうちふるえた。粘膜が擦れ合って頭が真っ白になるような感覚が増大する。よく物を考えられなくなって、静雄はひきつれた呼吸と喘ぎ声とでせわしなく唇を震わせた。トムもあんまり静雄がしめつけるから息を荒くして、動けずにいる。切れてしまいそうだった。

「うああ、あいい、トムさん、トムさん」
「やべ、俺も…。静雄、痛い、だろ」
「んなのどうだっていい。動いて、トムさん」
「なら力抜け」

ほしいもんくれてやるよとトムはニヒルに笑った。静雄はだらしなくいやらしい顔をしてヘラリとわらった。薬の効き目はあと一時間程だ。それが過ぎればまた静雄はジンガイに戻ってしまう。力一杯抱き締めればトムの背骨が折れてしまう。だから静雄は今のうちに力の入らない腕で目一杯トムを抱き締めた。

「なんだよ」
「愛してます、愛して、」
「うん、俺も」

そうして、だんだんと薬がきれてきて、静雄の腕がトムの骨を軋ませるようになると二人はやっと思い出したように影を離した。ベタベタな身体をシャワーで流すのはいつもトムだけだ。静雄はだるくってベッドから一歩も出られないまま寝てしまう。だからコンドームは必須だった。今もダストボックスで生々しい臭いをさせている。トムがベッドに戻ってみると静雄が間抜けな顔をして寝ていた。苦笑して同じシーツに潜り込むと意識を浮上させたらしい静雄がピルケースに指をのばした。例の弛緩剤が入っているケースだ。なにしてんだと尋ねてみると静雄は酷い顔で「あんたの背骨が寝てる間に折れたらシャレになんねぇ」と言った。トムは呆れながらピルケースを取り上げて、「お前はそんなことするヤツじゃねぇだろ」と。泣きたくなった。いつかこんな錠剤がなくてもセックスできる身体になりたい。静雄は心底そう思う。


END



title by サーカスと愛人

微妙に続いてた





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