A chain is no stronger than its weakest link.






五分程度でデューターは戻ってきたのだが、有利にはそれが三十分にも思えた。デューターは暖めた牛乳を持っていて、黙ってそれを有利に渡した。有利は少し躊躇ってからそれを受けとり、口をつけた。暖かな液体は蜂蜜でも入っているのか、とても甘く、有利を暖めた。気づかぬうちに指先は冷えきっていたらしい。

「悪かったな。うちの弟はどうにも酒癖が悪いらしい」

有利の涙がとりあえずおさまり、カップが空になったのを見計らったようにデューターは言った。有利はあーだかうーだかわからないような声を発して顔を下に向けた。先ほどの取り乱し様をこの男に見られていたのかと思うと、どうしようもなく恥ずかしく、情けなかった。気のきいた冗談も飛ばせそうにない。たとえば「お宅の弟さんはゲイなんですか?」とかだ。

「コンラートがゲイだったとは思わなくてな」

えっと有利が顔をあげると、デューターは至極真面目な顔をしていた。きっと本心からそう言っているのだ。それがわかると、有利はおかしくてたまらなくなり、ははは、とついつい笑ってしまった。

「なんだ、元気だな。ならはやく部屋に戻って寝るんだ」
「え、いいじゃん。デューターの部屋はじめてはいったよ」
「いれたことがないからな。兄もゲイだったらどうするんだ」
「そんときは急所に一発入れて、裸足で逃走」
「裸足である必要はあるのか?」

デューターは急所に一発入れられた経験があるのか、苦虫を噛み潰したような顔をした。束の間訪れる沈黙が耳に痛い。

「眠れそうにないな」

有利は自分の言葉に驚いたが、結局それが本音だった。ぬるりとした悪寒は今だ首筋にまとわりついていた。それを拭うように頭を抱える。首筋にさっきのいやな感触が残っているようだった。

「どうした」
「いや、甘えてるなって」
「そうでもないさ」

コンラートに言われた言葉を思い出した。デューターは有利に対して一定の距離をとって、いつも必要なだけの言葉しかくれなかった。けれどそれは冷たいとか冷酷だとか、そういう類いではなく、幼児の人見知りみたいなもので、デューターは基本的に優しい人なのだとちゃんとわかっていた。何十年も兄弟をやっていて、コンラートにはなぜそれがわからないのだろう。

この兄弟はなんだかおかしい。有利はもうこの家のシャワーをてなづけていたけれど、きっちり別けられた二人の居住スペースや、全く顔を合わせない生活スタイルには疑問が募るばかりだった。有利が顔を合わせるのはいつだって一人ずつで、いない片方は部屋に籠っていたり、外に出ていたりする。それは本当に歯車が正確に噛み合うようなものだった。けれどこの疑問をどちらかにぶつけるにはまだ有利は部外者だったし、本人もそれを認識していた。こんなヘヴィーな話を振るのはもっとずっと先でいい。もしくは振らなくたっていいのだ。けれど世界に一人だけの双子の片割れと、一生そんな風に接していくのは途方もない労力が必要だろう。そんなのはなんだかとても寂しくて、悲しい気がした。

「もう2時か。明日仕事がなくて助かった」

そういえばデューターは社会人だった。有利は一応デューターが大手広告代理店で働いていることは知っていたが、詳しい部署だとか、その会社名だとかは知らなかった。知らないことだらけだ、と有利は思った。コンラートについても同様で、それを思ったとき、有利は喉に小骨が引っ掛かったような感覚を覚えた。

「ああ、なんだか目が冴えちゃってたから気づかなかった。ねむい?」
「いや、普段からあまりはやくは眠らないから」
「でもなんか申し訳ないなー。」
「なら酒でも飲んで寝てしまうか?」

一瞬だけ良心の呵責があったが、有利は素直にそうだね、と頷いた。



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デュタユフラグばっか立ってますが、次の次くらいからはコンユに繋げていきたい。






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