今から君に告白します
朝目覚めると大抵窓から光が差し込んでいるけれどいったい何が楽しくてぬくやかな布団とシーツの世界から起き出さなければならないのだろう。志摩は毎朝そんなことを思う。ギリギリまで二度寝して、のんびり起き出すと、とりあえず歯を磨いて、洗面をする。寝癖はワックスとアイロンで捩じ伏せるとして、とりあえず制服に袖を通した。制服は嫌いだ。窮屈さの象徴である。
鍵を差し込めばそこはもう塾である。なんだかプライベートがあるのかないのかもわからなくなるような空間構造だ。いつも志摩よりも先に勝呂や子猫丸がきて勉強している。どこでも長男は大変だ。次男もか、と志摩は内心皮肉を唱えた。そうして志摩が席につくとチャイムが鳴り、いつものように奥村がギリギリになって教室に駆け込んでくる。しまい忘れたのか、わざと出しているのか、黒い尻尾がゆらゆら揺れた。
講義が始まれば睡魔ばかりが友達だ。だが寝ているところを見つかれば勝呂に嫌な顔をされる。面倒だ。彼は理想が高すぎる。働き者の蟻でさえ3割がさぼってしまうのだ、いわんや人間、いわんや志摩である。教壇に目を移すと奥村雪男がいかにも几帳面、という雰囲気で教鞭をとっている。彼はとても女子に人気があるのだが、寝たことはあるのだろうか。彼が女子を組み敷き、欲情にかられるようなことはあるのだろうか。だがあの性格だ、未だに童貞かもしれない。しかし人間とはわからないものだ。あんな真面目な顔をして、性的な女性を手込めにしている可能性も無くはない。そう言えばこないだナンパした女はよろしくなかった。ベッドの中であれしろこれしろと煩い上によくなかったとほざいて帰った。ああいう女は好きじゃない。男のちっぽけな自尊心1つ満たしてやれない女は駄目なのだ。ここで先生がしえみを指名した。彼女は立ち上がり、たどたどしく教科書を読みはじめる。彼女はとても可愛らしい。いかにも女の子なのに、群れずとも生きていける。そういう子は好
ましかった。志摩は依存されるのが嫌いだった。ふと周りを見回すと奥村燐が船をこいでいた。雪男の方が教科書でその頭を殴る。どっちが兄なのかわかりゃしない。そんなことをつらつら考えているうちに、講義は終わる。
最近随分寒くなってきた。冬の足音が聴こえて来そうだ。枯葉が道に降り積もり、歩くたびカサカサと音をたてた。ああ日常だ、と志摩は意識する。こんな何の気ない日々がいつまでもいつまでも降り積もって、講義がいつの間にか終わってしまうように、人生も終わってくれたらと思うのに。
「奥村くん、ちょっとええかな」
志摩は何の気なしに見えるよう、奥村を呼び止めた。今日のような昨日までが、今まさに終わりを告げようとしている。
END
企画:好きやで!様に捧げます