仮想妊娠





男には知るよしもないのだ、子供を安全な胎内から苦痛にまみれた世に送り出す痛みなぞ。

「なにしてん」
「薬飲んどる」
「なんのや」
「ピル」
「妊娠なんかせぇへんぞ」
「わかっとるわ」

いくら馬鹿でもそんくらい知っとるわ、と金造は気だるげに答えた。柔造は嫌なものを見る目をする。多分金造は少しだけロックにのめり込みすぎて、少しだけ柔造にのめり込みすぎて、少しだけ壊れてしまったのだ。女子にしても可愛くない面倒な行動が、少しでもなく柔造の神経を逆撫でした。

「やめぇや」
「なんか最近なんもうまくいかんねや。バンドもうまくいかんのや。柔にぃ、抱き締めたって」
「嫌じゃぼけ」
「ヤってる時やないとあかんの」
「ヤったあと薬飲むんやめたらええよ」
「いややいやや、柔にぃ、そんくらい自由にさして」
「ほんに、お前は」

馬鹿だなぁと、柔造はつくづく思った。この愚弟はもう駄目だ。柔造はもうそろそろ面倒になっていた。だが家族は死んでも家族なのだ。どうして、投げ出すことができよう。柔造は金造の腕を引っ張ると、敷きっぱなしの布団に押し倒した。

「腹痛い」
「おん」
「陣痛はこない痛いんかなぁ」
「おん」
「柔にぃ、愛してる」
「おん」

柔造が俺はそうでもないよ、と囁いたら、金造は泣き出した。どうせ、嘘、と言われるのを確信しているからだ。


END





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