bleach





アンモニアのつんとした不快な臭いが鼻をついた。薄いゴム手袋をした両手は大層動かしづらい。柔造はなんだかとても不毛なことをしている気分になった。せっせとブラシを動かし、ブロッキングした金造の髪を脱色しているのだが、この作業が案外大変だった。目や鼻に刺激がくるし、金造はしみるしみるしぬしぬうるさい。しかも手前は犯罪の片棒を担いでいるのだ。これが親に知れたら大目玉は免れまい。金造は独りでやったことにするからと土下座したが、多分バレるのだろう。こういう時自分は随分損な役回りを生まれながらにして背負ったものだなぁとしみじみ思う。

四半刻ほど格闘し、風呂場で頭を洗うと、金造の頭は綺麗な金髪になった。金造の色だ。その色があんまりにも金造らしかったので、柔造は少し不思議な気分になった。

そう言えば、金造のピアスも柔造があけたのだ。ファーストはワインレッドを選んだ。だが遠くから見ると黒が強すぎてくすんで見えたのを覚えている。マジックで印をつけてから、氷でガンガン冷やし、ピアッサーでひとつき。こういう時金造は意気地がないのだ。ぎゃーぎゃー泣きわめき、柔造は随分疲れた。その後金属アレルギーだったのか耳がぐちゃぐちゃになり、柔造に泣きついてきたのを病院へつれていった。金造が少しばかり柔造を恨んでいたのを、柔造は知っている。金造はあとからチタン製の綺麗な赤のファーストを選び、廉造に空けてもらったのを、柔造は知っている。別段腹は立たなかった。ただ手前は損ばかりしていると思った。

そうして、金造は目敏く前髪の生え際が黒いままなのを見つけ、「プリンじゃん!!」と言った。多分次からは廉造に頼むのだろうなぁと、柔造は思った。ただ溶液がしみないようにと、心を配った結果のために。


END


じゃあ一度目から廉造に頼めばうまくいくのだろうか、なんて、そんなことはないのだ





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