レトロ主義





人間なんてずっとずっとシンプルな元素が複雑にからまりあってしっちゃかめっちゃかになって欠陥だらけで結局自分のことすらわからなくなってしまうくらい面倒臭くなってしまった生き物なんだ。さらにずっとずっとシンプルだった元素なんかもまた素粒子なんて細々したものに分解して、そんなことをしてしまうから俺はこの感情の名前すら、わからない。

「嫌い」
「どうして」
「嫌いなんだ、」
「だから、どうして、」
「あんたといると辛い」

辛いんだ。こうしてあんたに冷たい言葉を吐くことも辛い。あんたが優しくしてくれるのが辛い。ただの特別な部下であることが辛い。どうしていいかわからなくなる。あんたの手が俺に触れた時異常に神経が興奮するんだ。シナプスがやたらスパークするんだ。どうしてこうなってしまうのかわからない。もっと人間が単純な生物だったなら、また明日が今日になるように単純な仕組みなら俺はもっと楽だったんだろうか。

「ごめん、ちがうんだ、ちがうんだ。俺がコンラッドを嫌いになるわけない。そうじゃなくて、俺は」
「陛下、ユーリ、やめてくれ。俺が辛くなる。そんな、期待させるようなことをあなたは」

コンラッドの手がさまよって結局もとの位置に戻るのだけれど、その手がつかみたかったものが俺のこの複雑でやたらシンプルな気持ちと重なっていたら、どんなにか幸せだろうと俺はまた頭を抱えるのだ。ああこんなにも彼がいとおしいのに、指先で触れることも、


END





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