me me she






そうかもう君はいないのか、なんてどこかで聞いたような言葉を、有利はいったい何度繰り返したのかわからない。ただそのたびにえもいわれぬ焦燥感に苛まれるのにはほとほと困り果てた。息が苦しくなる。誰かさんの名前を呟けば、ないてしまいそうだった。裏切られたのかどうかはわからない。まだ有利は未だにコンラートを見限ることができないでいた。けれどもう彼はこちら側の人間(魔族だけれど)ではないのだ。

有利は静かに魔石を握り締めた。近頃の癖になりつつある。一度二度と軽く握ってから、三度目でぎゅっと握る。何かのおまじないのように、それをした。その日はどうしてか知らないけれど、とても疲れていた。いつもより少しだけ目を通さないといけない書類が多かったからかもしれないし、シュトッフェルからの手紙を目にしてしまったからかもしれないし、ヴォルフラムが不在で一日中ギュンターと二人っきりだったからかもしれない。一人で夕飯を食べながら、自分はなんて孤独なのだろうと変なことを考えていたら、おいしい料理ものどを通らなくなった。夜のランニングを終えてみて、欠落感はいよいよ増した。どうしようもなく寂しくなって、コンラートが使っていた部屋に行った。いつもそうする。そこは隅々まで調べられていて、彼の持ち物は全て応酬されていた。ベッドにシーツすらかかっておらず、本当にガランとしている。灯台もないので、真っ暗だった。外はそんなに寒くないのにこの部屋だけはいつも冷え切っていて、それが悲しかった。有利はコンラートのベッドに横たわって瞼を落とした。とても、疲れていた。とてもとても疲れていたのだ。

有利がコンラートを嫌いになってしまえばもうそれでどちらも楽になれるのだ。きっと有利はコンラートに殺されなければ彼を信じることをやめないだろう。さよならと言えずじまいだったのもそのせいだ。この世界のことはなんだってコンラートが教えてくれたのに、彼はコンラートを嫌いになる方法と他の誰かを愛する方法だけは教えてくれなかった。狡い男だ。きっと、教える気などさらさらなかったのだ。そして彼は他の誰かに忠誠を誓うことも渋谷有利を嫌いになることもできないし、彼以外を愛することはしない。強欲で、エゴイストで、なのに優しいから、きっとどこかで有利よりもずっと胸を痛めている。有利はそれに考えが及ばないし、及んだとて嬉しくなどない。有利はただ、このベッドが温かければ、それだけでよかったのだ。それだけで。


END



image:me me she/RADWIMPS


私の中でコンユのテーマソングがこの曲です。





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