目が覚めたら幸せがありますように




※¨朝焼けにキスをしてさようなら¨の続き的な何か




おかしな話をこれからしようと思う。

俺は自分が誰なのか、いまいちよくわかっていない。たとえば突然現れた服のような存在なのだ。布だとか繊維だとか糸だとかそういう過程を全部すっ飛ばして今日という日に存在してしまった。僕が俺として目覚めたのは暑い夏の日だった。良く覚えていないけど、グリーンが横にいた。人の寝顔みるなんて悪趣味だな、と罵るより早く、「おはよう、ハッピーバースデー、ファイア」と言った。それがあんまりにも泣きそうな声で、何か祈っているように手を組んでいるものだから、俺はどうしてもありがとうと言えなかった。

「なんだよ、変なやつ」

グリーンは昔からそうだった。俺が昔というと変な感じがするけれど、俺の中にはちゃんと昔が存在していて、それが少なからず俺を形成している。どうして俺がこんなに自分のことを変なのだと自覚しているかというと、それは明らかにグリーンのせいなのだ。グリーンはよく俺の前で昔話をするのだけれど、それは確かに記憶にあるのだけれど、細部がどこかしら絶対に違っているのだ。グリーンの中の俺はどうしてか知らないが無口で自己中心的でどこか幽霊みたいに現実離れした人物だった。だからグリーンは俺がよくしゃべると変な顔をする。嬉しいような悲しいような複雑な顔だ。俺はそんなに変わっただろうか。俺の記憶の中の僕はどうしたって僕で、僕以外の何ものでもない。こうやって様々考えていると、なんだか頭の中が霞がかって、眠たくなる。眠ると歯車はまた正常に動きだして、俺は考えていたことがあまり思い出せなくなって、投げてしまう。そうやって俺は少しずつ少しずつ、考えることを放棄していった。そうすると僕はもっと俺らしくなれる。

けれどグリーンはやっぱりおかしかった。俺がグリーンの知っている僕らしく振る舞うと、俺の名前を間違って呼んだりする。その名前を俺は絶対に覚えていられないし、グリーンは絶対に教えてくれない。俺はよく寝坊するのだけれど、その度に心配するような、何か期待するような目を向けてくる。こんな違和感は段々と頻度を減らし、俺はだんだんと意識すらできなくなった。それすら意識できないのだから、俺は俺がおかしいことに慣れていったのかもしれない。

俺の記憶とグリーンの記憶の大きな違いは、旅をしたかどうかというところだ。俺は生まれてこの方マサラから出たことはなかったのにグリーンは何故か遠い町での俺とグリーンの話をする。その話を、俺は覚えられないのだけれど、ちょっと前までのグリーンはよく旅の話をした。グリーンも旅なんかしたことあったっけ?と思うのだけれど、まあ、いい。

それから一番困るのはグリーンが俺を見る目だ。失望していて、それなのに期待している。あの目が嫌だった。俺はいい加減、俺になってしまいたいのに、グリーンが邪魔をしてくる。俺になってしまえばマサラから旅立てるのだ。グリーンだって、そうなのに。外の世界はどんなにか素晴らしいだろう。そう夢見ながら、俺は眠る。昏々と、僕を消して俺を作り上げながら。


END




title by ギルティー





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