ただ朝焼けにキスをしてさようなら
レッドはよく眠る男だった。睡眠がなくては活動できない。こう言うとそれは全人類に当てはまってしまうわけだが、レッドのそれは少し異常だった。旅をしていた頃は1日10時間は眠っていた。旅を終えてからは12時間に増えた。それはただぐうたら昼まで寝ているというわけではないのだ。日が沈むとすぐベッドに潜り込み、そうすると夢すら見ていないのではないかと思うような深い深い眠りにつく。寝息を確認せずにはいられないほどに。レッドの身体がそれを欲しているのだった。シロガネ山ではどうだったのかグリーンは知らないが、ひょっこり下山してきてからはもっとずっと長い時間眠っている。目覚まし時計をセットしても意味がないので、レッドが自然に目覚めるのを待つしかなかった。
いつからだろう、レッドが目覚めると「今日は何日?」と聞くようになったのは。グリーンはよほど心配したのだけれど、本人はただゆっくりと瞬きを繰り返すばかりだった。レッドの睡眠時間はそれからもどんどんのびていって、とうとう「今日は起きてるんだな」と言われるまでになった。寝ている間はなにも食べないのでレッドは痩せた。前よりずっと色素が薄くなって、肌も白くなった。そうして、どういった化学変化が起こったのか髪の色まで明るくなった。レッドが最後にレッドらしく目覚めた時、彼はグリーンを呼んで、ゆっくりと瞬きをした。
「きっと僕が僕でいられるのは今起きてる分だけだと思うから、次起きた僕のことはレッドって呼ばないでほしい」
「…は?」
「グリーン、わかってるでしょ?」
僕はどんどん僕じゃなくなってる。そう言ってグリーンを見詰めるレッドの瞳の奥には小さな炎が燃えていた。レッドではない誰かがそこにいるのだ。グリーンはそれをわかっているから否定できなくて、やりきれなかった。
「お前はどうなるんだよ」
「…さぁ…」
「…そうやっていつも、お前は周りの気持ちとか考えないで勝手にどっかいっちまうんだ。勘弁してくれ…」
「ごめん…グリーン。ごめん…さよならなんだ」
だから、とレッドはグリーンを真っ直ぐ見つめた。真っ赤になった瞳は、もう黒に戻ることはないのだ。グリーンは痛々しい感傷にひたりながらゆっくりと目蓋を落とした。冷たい唇が触れ合って、離れる。抱き締め合って、グリーンはたまらずさよならと言うことができなかった。もうレッドの腕に力は無かった。
ただおやすみという意味だけ込められたならどんなにか幸せだったろう
END
捏造。
レッドさんがファイアたんになってたらって妄想の産物。
title by アメジスト少年