センチメンタル俺
静雄と臨也は本当の兄弟ではなかった。それは親が離婚してコブツキと結婚しただなんて現代的で健全な理由なんかではない。また孤児だった静雄を臨也が義兄弟として迎えたという心温まるような話では決してない。彼らは家計と生活を共にしながらも限り無く他人であり同居人であり、しかし家族ではなかった。家族ならどうして静雄は監禁されガムテープで拘束されるだろう。静雄は道端で臨也にさらわれた哀れな子供だった。まだほんの六、七歳で、すらりと伸びてきた四肢は日光に晒されず真っ白なまんまだ。髪はむらのある金髪で、それは臨也が脱色していた。1ヶ月に一回、必ず1日に脱色する。静雄はそれを儀式のように思っていた。また1ヶ月が過ぎたのだ。幼いながら静雄はよくものを考える。彼はもう11回髪を脱色していた。あと1回脱色すれば1年になる。
臨也は静雄をよくよく可愛がった。静雄の柔肌に傷をつけるようなことは一切なく、ガムテープをまき直す時でさえ「ごめんねシズちゃん、ごめんね」と時には涙さえ流した。けれどその透明さのわけが静雄にはわからない。どうして理解できようか。四肢の関節が固まるほどに拘束され冷え切った指先をして、どうして臨也の髪に触れることができるのか。静雄の身体はやせ細り、標準体重の三分の二ほどになっていた。瑞々しかった肌は埃にまみれ、柔らかかった髪は先端から千切れてきている。臨也はそんな静雄をよくよく愛でる。
「シズちゃん可愛い。大好き」
臨也はそう言いながら、12回目の染髪を始めた。アンモニアのイヤな匂いがする。毛先が溶け出すような感覚に、静雄は背筋をふるわせた。そうして目を閉じて、「ありがとう、お兄ちゃん」と。それは臨也の欲しがっていた言葉だけれどどこまでも空虚でアイロニーに濡れていた。静雄の喉がせらせら音を立てる。この一年、二人はいったい何をしてきたのだったか。
end
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