セックスは一人じゃできない
折原臨也は平和島静雄と殺し合いをしたこともキスしたことも(臨也が静雄を)強姦したこともあった。高校卒業の際、静雄の第二ボタンは誰にも渡らぬよう卒業式前日に臨也が千切って保管した。そのボタンは未だに臨也が持っている。壁に隣接する臨也のデスクは一寸特殊な仕様になっていて、椅子の入っているスペースの奥の方の壁の取っ手を引くとそこも引き出しになっている。そこには静雄のボタンに吸い終えた煙草、使用済みストローからハンケチ、千切れた蝶ネクタイ、先代のサングラス、保存用にパックされた精子までが収納されていた。ちょっとしたコレクションだ。臨也はそれを一週間に三回以上は机上に一つずつ並べ、点検し手入れをしてもとの薄暗い引き出しに丁寧に戻した。傍目から見ずとも異常な行動だ。彼の中には既に平和島静雄という人物が完成しつつある。彼は静雄の情報はほぼ完璧に取り揃えていたし静雄が今何を好きか、何を嫌っているかは手に取るようにわかった。臨也は所謂ストーカーだった。それよりずっと質が悪いかもしれない。けれど何時ものように静雄の所有していたものを整理していると(それは整理しようのないほど整頓されているのだけれど)、唐突に空恐ろしい、空虚が胸のあたりに穴をこしらえた。そういえば、と臨也は思い出す。折原臨也は平和島静雄と殺し合いをしたこともキスしたことも強姦したこともあったけれど、そういえば、そういえば、セックスをしたことは無い。臨也にはそれが不思議で不思議でしょうがなかった。それから、どうしてセックスできないのか、よくわからなかった。よし、静雄と性交しよう。臨也は早速準備を始める。けれど一切が終わってみて、ぐちゃぐちゃになった静雄を見下ろしてみて、果たしてこれはセックスだったろうかと首を傾げた。一体何が違うのか、何が欠落しているのか、臨也にはわからなかった。悩んで悩んで、「そうか、ヴァギナと子宮か」とも思ったが、どうやら違うらしい。何が言いたいかというと、とどのつまり、折原臨也はとても可哀想で孤独な人間だということだ。
END