結局なにがしたかったかっていうときみといっしょにいたかっただけっていう




※おてたぬ現パロ


「今日夏祭りなんだってよ」

みんみんとセミが鳴いている大学のキャンパスで、御手杵が隣の同田貫にそんなことを言った。同田貫は「ふうん、それで」と興味なさげに掲示板の掲示物を確認している。図書館の本を貸出期限が過ぎたにもかかわらず返していない人物がおたずねもののように貼りだされているのだった。

「あ、お前、本返してないな」

掲示物にはしっかり、御手杵の名前が書いてあった。工学部二年、学籍番号、御手杵。

「あっ忘れてた」
「『歌舞伎の歴史』に『初心者のための歌舞伎』って、なにおまえ、歌舞伎に興味あんの」
「ちがうんだって般教でなんかレポート書かされたんだって」
「ふうん、で、なんの話だったか」
「今日夏祭りやってるって話。俺、お好み焼き食べたいなあ」
「俺ぁ人混み嫌いなんだよ。それにお好み焼き一個に300円も出すなんざばかげてる。てめーで作ったほうがずっと安いだろ」

御手杵はお好み焼きというものを自分でちゃんとつくったことがなかったけれど、なるほどそんなものなのかと指を折った。なにが必要なのだろう、多分、卵と粉と豚肉とキャベツとかそのへんだ。御手杵は考えたらもっとお好み焼きが食べたくなってきて、ごくりと喉を鳴らした。時刻は午前十一時。

「お好み焼き食べたいなあ」
「なんだよ、作ってやろうか」
「え、つくれんの」
「簡単だろ。コープで材料だけ揃えりゃあとはうちにホットプレートあっからよ、それで焼けるだろ」
「まじか、じゃあそうしよう」

決まったら行動は早かった。二人はじりじりと太陽が照り付ける中、自転車にのって真夏のどろっとした空気を裂いた。コープは冷房がびゅうびゅうきいていてとっても快適だったけれど、材料を買い込んで外に出た瞬間にどっと汗が出た。今日の気温は35度まであがるらしい。ケータイのアプリがそう言っている。御手杵は割り勘にした買い物袋を自転車のカゴに放り込むと、「同田貫の家だよな?」と再度確認をした。同田貫は「ちょっとちらかってっけど文句言うなよ」とペダルにあしをかける。

言うほど同田貫の部屋は汚くなかった。いつもどおりそれなりに整理整頓されている。学生らしく安いボロアパートだけれど、御手杵はそんなこと気にしない。エアコンがついていないのが難点だったが、そこは扇風機様ががんばってくれるだろう。同田貫は窓を開け放ち、扇風機をつけると、台所の収納棚からごそごそと小さめのホットプレートを持ち出した。それをリビングのテーブルに乗せて、それからお好み焼きのタネをつくり始めた。御手杵も手伝ったけれど、男二人で並ぶには同田貫の部屋のキッチンは狭すぎる。御手杵は何度か頭上にある収納棚に頭をぶつけるはめになったし、肘と肘はなんども喧嘩をした。それでもタネはすぐにできあがって、あとは焼くだけという段階になる。

ホットプレートを温めてからタネを落とすと、じゅうじゅうと子気味いい音がした。御手杵の腹はもうぐうぐうと鳴っており、はやく焼けないかな、はやくやけないかなとそれを見つめている。同田貫が慣れた手つきでそれをひっくり返すと、豚肉がこんがりやけていて、とてもおいしそうだった。これにソースをかけてマヨネーズをかけて青のりと鰹節をちらしたらどんなにかおいしいだろうとそう思ったし、実際そうしたらとってもおいしそうでよだれが出た。

「いただきます」

ふたりしてできあがったあつあつのお好み焼きをはふはふと食べたらそれはもう至福だった。額に汗してたいへん暑い中作ったかいがあったというものだ。御手杵は唇に青のりをつけながら、「そういやさ、お好み焼きといえば夏祭りなんだけどさ」とまたその話を持ち出した。同田貫もついに折れて、唇に鰹節なんかつけながら、「涼しくなってからな」と返した。だいたいいつもこんなかんじ。


END

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