『あいしてる』のモザイク画




この本丸の同田貫正国には角が生えている。その角は真っすぐ額から伸びている、鬼のような形状ではなくて、どこか動物じみた、頭の側面から生えた、捩じれ角だった。それは同田貫の漆黒の髪と同じ色をしていて、最初は半円を描くように曲がっているのだけれど、途中から天を仰ぐように捩じれて、まっすぐに上を向いている。それは本来の同田貫には存在しないものであったがしかし、同田貫はそれが自分の身体に備わっていることが当然のように思っていた。はじめ本丸の他の刀はその異形を気味悪がったし、今でも何か災いを運んでくるのではと気味悪がる刀はいた。けれど同田貫はそんなことは気にならなかった。はじめからそうであったかと言われると嘘になる。はじめはどうしてこんなものがあるのだろう、どうして自分は角があることを自然に思っているのだろうと、幾晩も悩んだ。けれど、ある日同田貫が近侍で鍛刀した槍が、名乗りをあげてから開口一番で「あんたの角、きれいだなあ」と同田貫に言った。それから同田貫は、そうかこの角はこの槍に綺麗と言われるために生えていたのか、と、妙に納得できた。その槍の名前は、御手杵といった。
ふたりはその気性の相性からかすぐに打ち解けて、よくお互いの部屋で談笑をして過ごした。同田貫と御手杵では練度の差が大きすぎて、同じ部隊では出陣できなかったが、御手杵はよく、「あんたの戦ってる姿、みたいなあ。二本の角が血飛沫に濡れて、てらてら光ってるの、見たい。本丸に帰る頃にはもう赤黒く乾いてるからさあ」と言った。同田貫はああ、見せてやりたいなあと思った。だからはやく、御手杵に追いついてほしかった。
ある日御手杵は、「あんたの角、黒いばっかりなの、ちょっともったいないなあ」と言った。同田貫は別段そうとは思わなかったが、御手杵がそう言うのであればそうなのだろう。
「……色変えるのは、できないな。色塗るなら、まあ、加州あたりに何か借りればできるかもしれねぇが、一時的なもんだ」
「うん、それもいいんだけどさ、俺はきれいにかざってみたい。布とか紐とかつけてさ。女が簪つけるだろ。それみたいに、かざりたいんだ。戦に行くときは外せるようにするからさ、かざらせて。もっときれいにさせて」
「……あんたがそうしたいなら、そうしたらいい」
「ありがと」
御手杵はそう言ってから、同田貫の角のすみずみまで、採寸をした。もうこれ以上どこを計るんだというくらい、角だけでなく、頭のかたちまで、丁寧に採寸をした。その時同田貫が「……ん、くすぐったい」と言った。それは御手杵が角に触れた時だったので、御手杵は「この角って、感覚あるんだ」と言った。
「ん?ああ、ある。ぶつけりゃ痛ぇし、触られれば変な感じがする」
「ふうん……ほんとうに『身体』どうたぬきの一部なんだなあ」
それから幾日か経って、御手杵は同田貫にいくつもの装飾品を見せた。これはつけるのが大変なのではないかという品々で、同田貫は「鏡がねぇと自分じゃつけらんねえし、頭の後ろにつけるのは無理だ」と言った。そうしたら御手杵が「俺がかざりたいんだ。だから、全部俺がつけてやるんだ」と、ひとつひとつ、丁寧にサイズを確認してから、同田貫の角を飾っていった。角の先端には、刀の柄に似せた被せものをして、金色の紐で固定した。それから、半円を描いている部分には、六つのパーツからなる、同田貫の甲冑を模した、少し硬い皮のようなものを段々になるよう、太さに合わせて取り付けていく。そしてその一番太い根本には、ベルトのようなものをして、余った部分は耳の横に垂らした。さらに角だけでなく、頭の後ろの部分にも、角から皮でできた綺麗なベルトを伸ばし、そこに切っ先から三寸ほどを切り取ったような、長さの違う鈍色の装飾を四つ並べた。正面から見ると、垂れた鳥の羽のようになる。その金具に細い布を通し、耳の後ろから胸のあたりまでするりと垂らした。その布は少し厚めで、垂れた端に切れ目が入っている。まるで同田貫の襟巻のようだ。それから必要なところに紐を通してゆき、最後に御手杵は「なあ、耳に穴、あけていい」と聞いてきた。同田貫は得も知れぬ感覚に浮かされて、そのふやけた脳みそのまんま、「……ああ」と少し掠れた声で答えた。御手杵に好きにされるのは心地よかった。そうして自分の醜いと罵られたこともある角が、うつくしく装飾されてゆく様は、夢のようだった。
「太い針で無理矢理空けるからさあ、すげえ痛いと思うけど、大丈夫?」
「ああ、いい、別に、いい」
「うん、わかった」
まるで身体の全部を御手杵に預けて、それを好きにされているようだった。蕩けるように気持ちがよくって、御手杵が言ったとおりに太い針を耳たぶへ捻じ込んできても、なんにも痛くなかった。痛かったのだろうけれど、それよりもずっと気持ちがよかった。御手杵はその針の尖った部分を器具で断ち切り、あらかじめ取り付けてあった金色の紐からのびた房を、同田貫の耳から垂らす。そしてまた違った金具で、その針が取れないように固定をして、そのうらっかわの少し長く残った針の部分に紐を結び、それを角の装飾と繋げて、ほんとうに、これは同田貫のためにこしらえて、うつくしくその角を飾るためだけに存在するものなのだと思わせるように装飾をした。完成したそれを見せるために、御手杵は鏡を持って、同田貫の前に立ってみせた。
「こんなかんじ。……どう?」
「……わかんね」
「俺はきれいだと思うんだけどなあ」
「……いや……ただ、嫌いとかではなくて、……これを見せるのはあんただけがいいとは、思う……きれいとか、そういうのは、わかんね」
「……うん、それだけ聞ければ、満足。耳のやつ、固定させないといけないから、針だけ抜かないでくれ。房は取り外せるようにしてある。房はずしたらこの丸い鉄の玉つけて。今夜はちょっと痛むかも」
「べつに……なんか、あんたが空けた穴なんだなって思えるから、痛いのがいい」
「うん、痛い方がいいな、痛くなるといいな」
御手杵はそう言って笑うと、満足したように、同田貫の装飾された角を撫でた。装飾の上からなので、御手杵の指を、直に感じられないのが、とても残念なことのように思えた。それから御手杵は角の、捩じれたところに唇をつけて、「これ、俺のにしていい?」と聞いてきた。同田貫はなんで装飾の上からなのだろうと思いながら、「ああ、」と答えてしまった。
同田貫はぼうっとした頭で鏡を見ながら、これは御手杵がやったんだ、御手杵の手で飾られた角なのだ、と思った。そうしたらどうしようもなく、その装飾された角がうつくしく思えて、仕方がなかった。そのあとすぐに夕餉だとか風呂だとか、他の刀がいるからとか、そういう理由で御手杵が装飾を外してゆくのも心地よかったが、それとはまた別の感情も抱いた。それは、この角は、御手杵に飾ってもらわないと、無価値なものなのなのではないか、という、不思議な自虐だった。
その晩は御手杵に穿たれた耳の穴が、酷く痛んで、しあわせだった。布団の中で、くすくすと笑ってしまうほど、それは心地いい痛みだった。破瓜の痛みの、その余韻のような、そんな痛み。

それから御手杵は様々な装飾を同田貫の角に施した。はじめこそ黒が基調だったけれど、だんだんと黄金や赤の装飾も増えていって、同田貫の耳の穴が固定される頃には、同田貫に似合うだろう色はすべてつぎ込まれてしまっていた。けれどそこからもまだ、かたちやらなにやらをいじりたいと御手杵が言うので、同田貫はほっとした。まだ御手杵は自分の角を飾ってくれる、自分の角を愛でてくれる、自分の角に触れてくれる、と、安堵したのだ。

しかし、そんな日々が続いたある日、同田貫は顔面を蒼白にして戦場から戻ってきた。その頭の角は、右が無残にも根本から少しのところで折れていた。それはじくじくと痛み、血液さえ流れていた。死角からの攻撃を、咄嗟に角で受けてしまったのだ。どうにか折れた角の回収をして、襟巻にくるみ、震える手で持ち帰ったが、手入れをしても、その角は元には戻らなかった。同田貫はどうして、どうして、と思った。それから、御手杵に会うのが怖いと思った。片方の角を失った自分が、御手杵にとってどれだけの存在価値があるのか、わからなかったからだ。
かといってこのことが御手杵に知られないはずもなく、御手杵はすぐに同田貫に会いに来た。そのあたりでもまだ角の出血だけはどうにもならなくて、布をあてがって、包帯で止めていたのだけれど、その包帯にもじくじくと赤が侵攻していた。同田貫は本当に色を無くして、何も言えなくなった。御手杵はまず、「痛そうだなあ、大丈夫か」と言った。
「……」
「顔色、悪いな、酷いんだ。な、折れた角は?」
「……こ、これ……」
「きれいに折れてる。かたちそのまんまだ。……なあ、これ、俺がもらってもいい?」
「……え、」
「だめ?」
「……いや……いい、けど」
「ありがと」
同田貫は襟巻に包んでいた折れた角を、御手杵に手渡した。その角はなんだかもう気味が悪かったので、御手杵が貰ってくれるならそれでよかったのかもしれない。それは自分の一部であったけれど、もう含んでいた血も流れ切ってしまって、ただの、そう、死体のようになっていた。切られた髪の毛を気持ち悪いと思うように、切られた爪を気持ち悪いと思うように、それが近くにあるだけで、死んだ自分が近くにあるようで、おそろしかったのだ。
同田貫の折れた方の角の根本は、数日してやっと包帯が取れた。しかし出血が止まっただけで、断面は骨のような芯の白いのが真ん中にあって、肉のような赤いのがそれを取り巻き、それを外角が覆っているのが丸見えだった。これからこの断面がどうなるのか、同田貫にも、他の刀にもわからなかった。ただ、片方の角を失ってはじめて、もう片方の角が、ひどく重たいのだと、気が付いた。
そして、もうひとつ同田貫のこころを重くすることがあった。それはやはり御手杵のことだった。御手杵は同田貫から折れた角を受け取ってから、その角にばかり気持ちをやって、飾り立てて、そうして、頬を寄せたり、唇を寄せたりしていたのだ。同田貫は障子の隙間からそれを覗き見て、ひどく、折れた角のところが痛むような心地がした。それはかつて自分だったものであって、今の自分ではないのだと、胸が締め付けられるようだった。けれど、かといって、御手杵に何かを強請る勇気はなくって、ただただ痛みだけを抱えて、過ごした。そしてたまに、自分の耳に空いた風穴に指をやって、ここはもう痛くない、と、ゆるく瞼を落とした。それが悲しくって、そこを飾っていた金の房を持つのは御手杵で、自分にはなんの飾りにもならない鉄の玉だけが残されていて、それもまた悲しかった。痛みが戻ればきっと、この片角の頭のように不格好で不安定なものではなくて、何か、少しでもあたたかい気持ちになれるのだろうかと、御手杵が刺した針を抜いて、自分で用意した、それより一回り太い針を、無理矢理ねじ込んだ。それは酷く痛んで、あの時のような心地よさはどこにもなくって、ただただ痛いばっかりで、同田貫を眠れなくさせた。過ぎ去った幸福を抱いて、それがもう戻らないのだとわかって、同田貫はどうして自分には角が生えていたんだ、と、前のように、静かに々、頬に一筋だけ水を垂らした。
その風穴はもうあることに意味を見いだせなくって、次の日にはなにもかもを抜いてしまった。そしたら気が付かないうちに血が流れていて、洗面所で顔を合わせた御手杵に、「耳どうしたんだ」と聞かれ、同田貫は「なんでもない」と答えた。そうしたら御手杵はそこに誰もいなかったのをいいことに、その血を舐めるような距離で「自分でなにかした?」と尋ねてきた。御手杵の声はなんだか変だ。いつも同田貫の脳みそを揺さぶる。だから同田貫はきゅうに熱があがったようにぼんやりして、「痛くしたかった」と返した。
「痛くしたの」
「……穴……痛かったとき、なんか、よかった。……だからもっと太いのを……」
「なんでそんなことしたわけ?ね、なんでよかったの」
「わかんね……あんたが、きれいにしてくれた角、よかった。あんたの角さわる手が、よかった。穴あけたの、あんただったから……よかった。でもあんた、もう俺の角かざらないし、折れた角は飾るから……」
「ああ、そっかあ。ごめんなあ、ちょっとさあ、最近夢中になりすぎてたな。あんたの角さあ、ああ、これが同田貫だったんだなあって思ったら興奮してさあ、ね、色々、使ってたわけ」
「……」
「……俺の部屋、きて」
同田貫はそう言われるがままに御手杵の部屋について行った。そうしていつものように、やっと、御手杵が角を飾ってくれるのかと期待していたら、御手杵は装飾品は出さないで、ゆっくりと、折れた方の角の付け根をなぞった。同田貫の目の前には、綺麗に装飾された、あれは多分一番最初に装飾してもらった装束の角が飾られていて、気味が悪かったはずなのに、それはとてもうつくしく思えて、逆に自分に生えている角が、醜く思えた。
「……折れた断面、ピンク色のとこある。痛い?」
「……痛い。ずっと」
「触ったら痛い?」
「……どう、だろ」
「触ってい?」
「……ん」
御手杵はすうっとひとさし指で焦らすように、その外面を撫でて、同田貫が「あ」と甘い声を出してからやっと、その断面に触れた。そうして、「痛い?」と聞く。同田貫はなにもかもがわからなくなって、「あ、あ、」と言葉にならない声しか出せなかった。御手杵はその断面に唇を寄せて、べろりとそこを舐めた。そうしたらよくわからない感覚が背筋を這って、同田貫は声をあげてびくんと身体を震わせた。
「ね、ほんとは痛くなかったんだ。痛かったの、違うとこだと俺は思うんだよなあ」
「……は、あ、……どこ……」
「ここ」
御手杵はそう言うと、ひとさし指で同田貫ののけ反った顎から喉仏をなぞり、鎖骨の間を抜けて、胸の真ん中で指を止めた。
「俺にかまってもらえなくて、寂しかった?耳に痛いだけの穴あけるほど、寂しかった?」
「……わかんね……」
「俺さあ、折れた角かざっててさあ、まあ楽しかったんだけど、これは同田貫だったもので、現在進行形の同田貫じゃないんだなあって、なーんかもやもやしてたの、昨日やっと気が付いてさ。ごめんなあ、寂しかったなあ」
「ん……」
「俺はさ、同田貫が欲しいんだよ。角がどうとか、そうじゃなくって、角がある同田貫ならなおいいってだけで、同田貫が欲しい。だから、ちょうだい」
「……どうやって……」
「あは、あげることにはためらわないんだ。好きだなあ、同田貫のそういうとこ、好きだ」
「……どうしたら……」
「もう誰にも会わないで。誰とも喋らないで。戦にも行かないで。ただ俺だけのためだけに存在して。そしたらまたきれいにかざるよ。耳にもちゃんとした穴空けたげるよ。折れた角はね、その条件を満たしてたんだ。だから可愛かったんだ」
「……無理だ……戦には行きたい。俺の存在意義だから……」
「だよなあ。無理なんだよなあ。じゃあさ、抱かして。まぐわって、その間に、残りの角、俺が折っていい?」
「……ああ、うん、ちょうど、左っかわだけ重くて、邪魔だなあって思ってた」
「それから、俺と恋人になって。そしたら、折れた角のぶん、同田貫の耳とか、身体とか、穴あけて、紐通して、きれいにかざったげる。きっとそっちのが、きれい」
「……ん」
同田貫が少し頷くと、御手杵はすぐに、同田貫を押し倒した。そうして、折れた角の断面を丁寧に舐めて、痛くないってわかっているくせにいちいち、声も出せないでいる同田貫に「痛い?」と聞いた。同田貫はやっぱりうまく答えられなくって、これがなんなのか、わからなかった。そうしたら御手杵はひそひそ笑うようにして「きもちいんだ」と、耳の風穴に唇を寄せた。血が固まってかさぶたのかわりになっているのを、歯で剥がして、また血を流させて、「あとでちゃんと俺がもっと太くあけたげるからな、こんなのいらないもんな」とそこを痛いように噛んだ。痛いはずなのに、そういう感覚が全部、御手杵の言う「気持ちいい」ものに変換されて、同田貫は意識がどんどんぼんやりしていくのがわかった。衣服がどんどんはだけていって、御手杵もくつろげていって、抱き合って、お互いの心音を確かめるように、肌を合わせた。
御手杵は同田貫の角があった場所を執拗に責めながら、油を塗った指を、同田貫のうしろに入れて、ひどくかき回した。そうしたら「気持ちいい」のと、変なのとが混ざって、脳みそがふたつになりそうだった。
「あ、あ、やめ、どっちかに……どっちかに、しろ」
「だって、きもちいーのだけじゃ、最後までできないし、変なかんじだけだと、きもちいくないからつまんないじゃん」
「あっあっ、無理、あ、きもちい?……ちが、変……あ、ああ、頭、おかしくなるっ……あっあ、んん」
「もう角が生えた同田貫のことかざれないのはさあ、悲しいんだけどさ、でも今度から同田貫の身体のすみずみまでかざれるの、すっごく楽しみ。ああ、折りたいなあ、残りの角、折りたいなあ」
「んっ、あ!?……あっああああ、ちが、そこ、変だっ!あ゛、ああ、」
「ちがうって、ここが『気持ちいい』とこ。へえ、ここなんだ。ね、知ってる?ちんこにも穴空けられんだぜ。そしてさ、穴が完成したら、尿道まで差し込める金具つけてさ、それで射精管理とか、おしっこの管理とか、全部できちゃうの。そういうの、すげぇぞくぞくする。やりたいなあ、そういうの、やりたい」
「あ、あ、も、欲しい、御手杵の、欲しい、指じゃ、イきたく、ない」
「ああ、うん、もういいかな。多分痛いけど、痛くないよ。耳に穴空けた時、あんた、そんな顔してた」
御手杵は無邪気なのに、どこか薄暗く笑いながら、同田貫の脚を、片方肩に担いで、そして、同田貫の後ろに、ぴったりと欲望の塊を押し付けた。それを手で支えて、ゆっくり、ゆっくり、同田貫のナカへ挿入してゆく。同田貫はやっぱり、痛いのに痛くなくって、気持ちよくって、声が酷そうだから、手でそれをおさえた。そうしたら御手杵が身体を曲げて、顔を近くして、「だめ」と言った。同田貫の手が、なんにも触られてないのに、口から離れて、押さえつけられてなんかいやしないのに、床に縫い付けられた。
「あ、あ゛あ゛、きもちい、あ、痛い、あ、あ」
「いい子、イイ子」
御手杵は同田貫の頭をなでながら、子供をあやすようにそう言った。そのくせ、その手をずらして、折れた方の断面をいじめるから、たちがわるかった。同田貫は泣きそうになりながら嬌声をあげて、ずぶずぶと穴を拡張される感覚に酔うようだった。喘ぎ声がひどくなって、御手杵に幻滅されやしないかとこわかったけれど、声をあげればあげるほど御手杵はうれしそうな暗いかんばせになって、同田貫もなんだかその色に染められるような心地がした。そうして、御手杵のそれが全部埋まって、御手杵が「全部はいった。ね、どこまで入ってるかわかる?指で教えて」と言ってきた。
同田貫は「え」とはじめ戸惑った。恥ずかしいのとはちょっと違う、変な気持ちになったからだ。けれど御手杵に再度「教えて」と言われたら、どうしようもなくて、付け根から少しずつ押していった。そのたんびに御手杵を感じて、「あっ」と声が漏れて、ひどく高揚した気分になる。そうして、やわらかい、けれどきちんと筋肉のついた下腹のまんなかあたりを押して、「ヒッ」となったので、ここが御手杵の先端なのだと思った。
「……こ、ここ」
「ほんとかなあ、わかんないなあ、とんとんってしたらわかるかも」
「……っ、」
同田貫は言われた通りに、そこを軽く、とんとんとした。そうしたらやっぱり声が出て、自慰を視られているような羞恥を覚えた。御手杵は「そんな軽くじゃナカまで響かないなあ。えーっと、ここ?」と、同田貫の指の上から、ぐっとそこを押した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「あは、正解。これからさ、ここ、何回もノックするかんね。何回もだよ」
「や、やめ、むり……」
「大丈夫、なんもわかんなくなっから」
御手杵はそう言うと、太くて長いのを、同田貫から抜いたり挿れたりした。そのたんびに同田貫はびくびくと身体を跳ねさせて、どうしようもないと泣いて、わめいて、もう無理だと懇願した。そうして、その「もう無理」がほんとうに限界にきて、同田貫のそれから白いのが出るのと同時に、ボキン、と、鈍い音がした。
「あは、ちゃんと歪に折れた」
「っあ、は、角……」
本当は同田貫の頭の左側にあるはずの角が、御手杵の右手の中にある。それは根本から折れてはいたけれど、力任せに折ったせいで、少しギザギザしていて、一部は尖っていて、ひどく歪だった。そしてその角からは、暗い色をした血液が、ばたばたと落ちている。同田貫の左の付け根からも、それよりずっと多い血液が、流れ出ていた。
「綺麗な断面と、汚い断面があるの、すげぇそそられる」
「あ、あ、も、」
「血が出るんだ、やっぱり。痛い?痛くない?わかんないよなあ、もっとわかんなくしようなあ」
御手杵はそうやって無邪気に言うと、同田貫の身体の心配なんかしないで、自分が満足をするまで、同田貫の奥を何回も何回も何回も突いて、血の流れ出る角があったその断面にキスをして、同田貫の意識が朦朧となったあたりに、やっと、身体を離した。それから、正体を無くした同田貫の身体をなぞって、「ここと、ここ、それからこのあたり、穴あけたいなあ」と、やっぱり無邪気に、けれどどこか薄暗く笑った。折れた、折った角を、可愛いものを愛でるように、頬にこすりつけながら。


END

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