本丸 | ナノ

episode 9
きっとそれでも大丈夫



「第一部隊が帰還したぞ!怪我人がいる!!肩貸してくれ!!」

第一部隊が帰還したとき、御手杵は蜻蛉切を探してちょうど玄関のところまできていた。和泉守の声に、はたと門のあたりを見ると、血に濡れて立つに立てない恰好をした刀どもが互いに支え合っているのが見えた。御手杵ははっとして、履くものも履かず門のところへ行き、「大丈夫か!?」と第一部隊に声をかける。すると第一部隊の山伏が、「すまぬ、同田貫殿が一番重傷だ。手入れ部屋まで運んでやってくれ」と言う。自分も肩で息をしているというのに。御手杵はすぐにぐったりとした同田貫を肩に担ぎあげようとして、「肩貸しゃいいんだ、肩」と唸られた。御手杵は「こっちの方がはやいだろ」と、それを聞かずに同田貫を抱え上げる。振動がきたのか同田貫はぐうとうめいて、静かになった。

御手杵はそのまま同田貫を手入れ部屋に連れていき、横にした。それから何かできることはないだろうかともたくさし、とりあえず同田貫の武装を解けるところだけ解いていった。まだ意識のある同田貫が「余計なことすんな」とまた唸ったが、御手杵は「絶対ほどいたほうが楽だろ」と言ってきかない。結局全部の武装をはがされて、同田貫はやっと息をついた。

そうこうしている間に隣の手入れ部屋にも長谷部が担ぎ込まれ、その隣に山伏が入り、残りには青江が入った。手入れ部屋はいっぱいになり、隣の空き部屋で軽傷だった燭台切と太郎太刀が手当てを受けている。一番練度が高いと言われていた太郎太刀でさえ顔に傷をこさえており、御手杵はまず、「なにがあったんだ?」と尋ねた。

「恰好悪いとこ見られちゃったね。検非違使と三連戦だよ」

答えたのは燭台切だった。検非違使は最近出てくるようになった得体のしれない「敵」で、それくらいは最近来た御手杵でも知っていた。遭遇すれば部隊の誰かしらが負傷して帰ってくる。

「うへえ……」

御手杵はまだ検非違使どころかまともな出陣もしていないが、それが手ごわい敵だということは本能的にわかった。口では溜息なのかなんなのかわからないような情けない声が出たが、その実、自分もいつか戦ってみたいと思っている。ぼろぼろの部隊を目にしてなお、その戦意は尽きることがなかった。自分なら、自分なら、と、思っている。御手杵はそれがうぬぼれだとはちゃんと自覚していたが、それでも抑えることはできなかった。戦場のにおいが、鼻につく。

「あ、御手杵君、君、血がついてる」
「え、あ、同田貫の……」

頬にちょっとした違和感があったのでそれを拭ってみたら、案の定だった。それから自分の服を見てみると、そこかしこにべっとりと血が付いている。これは洗濯しなければならないだろう。血を見ていると、気持ちがたかぶるのがわかった。なにかが滾って、どうしようもなくなる。自分もはやく、はやく、と、ソレを求めているのがわかった。やはり御手杵は武器なのだ。どんなに人間の真似事をしていても、その根底は、揺るがない。御手杵のその様子を見た燭台切は溜息をついて、「部隊を組み直すだろうから、進言してあげるよ」と言った。

「……え、」
「どうせ、第一部隊は明日は出られないんだ。練度が低い刀の練度上げでもしたらどうかって」
「……戦に出られるのか!」
「まだ決まったわけじゃないけどね」

燭台切は苦笑した。御手杵は機会が与えられたのなら今度こそ、と、拳を握る。今度こそ、勝つんだ、と。それが正しいだとか、正義だとか、歴史修正がどうのこうのとか、そういう難しいことは、まだわからない。けれど今は目の前に戦がある。存在価値がある。それだけでよかった。それだけで。


END

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