本丸 | ナノ

episode 8
折り目ただしく



「できました!ちょうたいさくです!」

御手杵がしぶしぶと勉強部屋に入ったとき、そんな声が聞こえた。昼下がりの勉強部屋はいつもの粛々とした雰囲気から離れ、たいそう賑わいを見せている。その中心にいるのは秋田と前田だった。秋田藤四郎は手に鳥のように折られた紙を持ち、前田は風船のように膨らんだ紙を持っていた。他にも五虎退や今剣が鮮やかな紙を手にしてそれを黙々と折り込んでいる。御手杵が来る部屋を間違えたか、と思った矢先に、秋田が「あっ!御手杵さんも一緒にやりましょう!」と声をかけてきた。御手杵は「俺?」と自分を指さし首を傾げたが、この本丸に御手杵は自分しかいないのだとわかると、鴨居に頭をぶつけないように気をつけながら、部屋に入った。

見ると机にはいつもの勉強道具ではなく、色とりどりの紙がちらばっている。赤に黄色に青に緑、と、それはさまざまだったが、どれも正方形のかたちをしており、さらによく見ると、紙の中にはどうやってそうなったのか、不思議なかたちに折り込まれたものが散見された。

「おりがみっていうんです」

前田がそう説明したが、御手杵にはなかなかそれが理解できない。風船のようにふくらんだ紙をおそるおそる手にとり、しげしげとみつめて「すごいなあ」とだけ口にした。

「僕のだってすごいんですよ!」

そう言ったのは秋田だ。手に持っている鳥のような紙を御手杵の目の前につきつけて、ふんふんと鼻を鳴らしている。御手杵はそれも見て、その精緻なつくりに「おお、これもすごい」と感心をする。

「短刀は器用なのか?俺はできないぞこんなん」

だって、この四角い紙がこんなふうになるなんて頭が追いつかない、と御手杵はほんとうに感心をして、それぞれの作品を眺める。花に鳥にカエルに星に手裏剣に、よくはわからないけれど綺麗におりこまれた紙の数々。彩りも綺麗であるし、折り目はただしいしで、見ているだけで楽しくなる。御手杵が「どうやって作ってるんだ?」と首を傾げたのを見て、五虎退が「か、簡単、なんですよ。簡単なのから、いっしょに、つくってみませんか……?」と声をかけてきた。御手杵は自分にもこんなのができるのか!と思い、「ほんとうか!?」とそれに食いついた。五虎退はふんにゃりと笑って、「お教えします」と言った。

「うさぎさんを作りましょう」

そう言って、五虎退は桃色の紙でできたウサギのようなかたちの折り紙を御手杵に見せた。これが見本らしい。たしかに他に比べると折り目もすくなく、これならば教わればできるだろうと思えた。

「何色にしますか?」

五虎退がそう言うので御手杵は驚いた。

「えっうさぎは白とか…そういう色じゃないのか?」

御手杵がそんなことを言うと前田が少し笑って、「ええ、そうなんですが、これは折り紙ですから、好きな色で折ってかまわないんですよ」と教えてくれた。御手杵はなるほど、と思い、どれにしようか迷った挙句に、緑のおりがみを選ぶ。

「まず最初はこの紙を三角形に折ります」

五虎退が説明をしながらおりがみを折ったので、御手杵もそれにならって三角形をつくる。そうして斜めに折り目をつけたら、一度開いて、今度は真ん中の折り目に辺を合わせるように折り、真ん中で両辺をそろえる。そうしてそれを折り目のまま半分に折り、耳をつくり、と、何度か折り間違いながらも、御手杵はどうにか、四角いだけの紙をうさぎに近づけてゆく。最後に耳の部分に少し鋏を入れて、完成だ。

「おお、うさぎだ」
「おめでとうございます」
「あ、ありがとう」

御手杵が作ったウサギは、少々不格好ながら、はじめてにしてはいい出来で、お手本のウサギと五虎退のウサギと並べられた。こうしてみると仲間が増えたようで、お手本のウサギも少しうれしそうに見える。御手杵がへらりと笑ったところで、「ごこたいばっかりずるいですよう」と今剣が割って入ってきた。どうやら自分も先生というものをしてみたいらしい。

「こんどはしゅりけん、つくりましょう!」
「えっそれはちょっと難しいんじゃないですか?」
「いっしょにやればだいじょうぶですよー!」
「あのあの、虎さんも、作りましょう……」
「僕も御手杵さんに教えたいです!」

わあわあと詰め寄られて、御手杵はたじたじになりながらも「順番、順番な。とりあえずはやかったから、今剣から、教えてくれるか?」と短刀たちの相手をする。なんだか楽しかった。新しいことを知っていくのが、教えてもらえるのが、なんだか楽しい。勉強部屋に来るのも、たまにはいいかもしれないなんて、そんなことを思った。今度蜻蛉切に、超大作を作って見せにいこう。


END

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