本当は正直、泣きたいことの方が多いよ






※ELLEGARDENのアッシュをイメージして書いてます




僕たちは奪い合っている。そうだろう、少年。時間も感情も身体も奪い合っている。あとになってもっとこうすればよかったとか思う時のほうが多いだろう。それでも僕たちは奪い合うんだ、少年。僕はすごく詩的なことを考えている。

「それが恋とか言うもんじゃないんですか」

少年はいつかそう言った。僕は納得しかけたけど、そのときの君の顔はとても悲しそうだった。だから本当に納得はしていない。僕は少年よりずっと大人だ。愛ってものも知っている。いや、知ったふりをしている。僕たちは愛し合っているんだ。だからきっと奪い合うんだ。お互いがお互いに生まれてきたときからずっと持ち寄っている愛を奪い合っているんだ。だからいつまでたってもなくならない。僕が君からいくら奪っても、君が僕からそのぶん奪っていく。だからずっと繰り返される。それってとても幸せなことじゃないかな。僕がそれを享受していいのかはわからないけれど。

僕は、僕だけはきっと優しい人にはなれないんだ。いつだって少年を傷つける。少年からたくさん奪う。僕はそれがとても悲しく思えるよ。けれど少年はいつだって少年のままだった。僕が何回泣かせても、次の日には僕の名前を呼んで、僕の隣に来てくれる。僕はそれに心奪われてしまうんだ。少年は僕からたくさん奪っていく。そうやってうまくバランスを取っているんだろうね。僕がそこにいていいのかはわからないけれど。

「スティーブンさんって時々卑屈ですよね」
「そうかな」
「なんか、そう思います」
「そうだね。そうかもしれない。僕は結構、君に後ろ暗いことをしているから、そのせいかもしれない」
「後ろ暗いことがなくなればいいんですか」
「それは難しいな」
「じゃあずっと卑屈なまんまじゃないですか。そんなのは嫌だ」
「そうだね、どうしようか」

僕はそこから先言葉を見つけることができなかった。だって僕は幸せとかそういうものを享受していい人間ではなかったから。少年とこうして話をすることすらはばかられる存在だから。今こうして安穏としていてもいいのかと疑問にさえ思う。僕はひどい大人になってしまった。汚れたぶんだけ大人になってしまった。少年にはそうなってほしくない。勝手にそう思うよ。だから僕は少年を「少年」と呼ぶ。君にはまだ早い。大人になるのはまだ早い。まだずっとこうしていようよ。何度も奪って、奪われて、駆け引きもなんにもない、ただぬるま湯に浸っているようなこんな関係。奪ったぶんだけ奪って、そのぶんちゃんと返して、僕たちはそうやってバランスをとっていくんだ。後になってもっとこうしておけばよかったとか、そう思うことだってあるだろう。けれどいいじゃないかって思うんだ。今このときを過ごしていたい。僕がそうしていていいのかは、やっぱりわからないけれど。


END


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