ほんとうは今すぐ嘘がほしい






※RADWIMPSの愛しをイメージして書いてます





レオナルドはスティーブンに「好きです」と言う。それはほとんど愛の告白だった。けれどスティーブンには理解できない。スティーブンにはなにもないからだ。レオナルドに与えられるものも、かけてあげられる本当の言葉も、スティーブンにはなにもなかった。それなのにレオナルドはスティーブンを好きだと言う。いつか泣きながらそう言った。いつからだろう、その言葉に涙がついてまわるようになったのは。

「好きです」
「錯覚だよ」
「錯覚でもいいんです」
「どうして少年は僕のことがそんなに好きなんだい」
「だってあんたには何もない」
「何もないから好きなのか」
「だってそんなのは悲しい」
「少年、それは偽善って言うんだ」

スティーブンの言葉はいつだってレオナルドを傷つけた。もちろんそれらが全部本当なわけじゃない。人が誰かに何かを与えたいと思うのは愛だ。レオナルドはスティーブンをちゃんと愛している。とてもうつくしい。けれどスティーブンはそんなうつくしさを受け取る価値が自分にはないと思っていた。スティーブンの心も身体もすべてはスティーブンのためだけにあった。自分のためだけに生きている。心と言葉が乖離していて本当によかったとスティーブンは思った。そうでなければ今にでもレオナルドの純粋な愛を受け入れてしまう。

「偽善じゃないです。僕はちゃんと見返りを求めます」
「どんな?」
「僕が愛したあなたがたくさんのものにあふれて、それに押しつぶされそうになる姿を見ることです」
「それは残酷だな」
「それが幸せっていうんです」
「少年、それは押し付けだ」
「だってあんたはそういう場所からずっと離れたところで独りぼっちじゃないですか」
「…そうだね。それでいいと思っている」
「そんなのは悲しい」
「俺は悲しくない」

レオナルドはとても優しい。レオナルドに愛されるに値しないということはスティーブンが一番よくわかっていた。だから受け入れない。けれど拒絶もしない。残酷なことをしているとわかっていた。わかっていたけれどそうでもしないと明るい方へと歩き出してしまいそうだった。スティーブンはただただ屍の上に立っている。これからも立ち続ける。そうしないと神様が許してくれない。

「スティーブンさんは嘘つきだ」

レオナルドはじっとスティーブンを見つめた。スティーブンはその眼を見返しながら、「大人は嘘つきなんだよ、少年」と言った。スティーブンの心はいつだって口を閉ざしている。どんなに悲鳴をあげたくてもその口は縫われていたので叫ぶこともできない。ずっと昔からそうだった。そしてこれからもそうだった。それは変わらない。変わらないから変わることはできない。スティーブンは幸せになる資格がない。レオナルドに愛される資格がない。

「愛してます」

涙のような言葉だった。スティーブンは「うん」とだけ答えた。いつかこの愛に応えることができたらいいと思った。レオナルドの言葉が涙のようにスティーブンに降り注ぐ。それはいつしか雨になってスティーブンを濡らすのだろう。スティーブンにはわかっていた。ちゃんと拒絶しないといけないと。けれどそうしない自分が、スティーブンが唯一レオナルドにしてあげられることだった。たったそれだけだ。それだけのために、レオナルドは涙を流し続ける。かわいそうだと思った。何よりも誰よりも自分のことを。


END


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