掛け違えた愛してるがさよならのドアをノックする






「愛してるだなんて、言わないでください」

レオナルドがそう言ったのは今まさにスティーブンがそういった類の言葉を口にしようとしたときだった。スティーブンはどうしたものかな、と少し考えてから、「どうして」とだけ尋ねた。レオナルドは黙っている。

「どうしてだい、少年」

スティーブンがそう言うと、レオナルドは今までずっと考えていたんだというような口ぶりで「だってあんたそんなこと思ってないから」と言った。スティーブンは面倒なことになったな、なんて酷いことを考えた。だってスティーブンはレオナルドを愛していない。好きか嫌いかと聞かれただけでもうーんと少し考えてしまう。なのにどうしてか二人は付き合っている。告白したのはどっちか覚えていない。それはスティーブンかもしれなかった。矛盾している。けれどこういうのがスティーブンのよくある恋愛模様だった。ある程度好きになれそうな相手にちょっかいをかけて、付き合ってみて、ダメだったら別れる。今回も潮時なのかもしれないと思った。スティーブンはレオナルドの閉じられた目をじっと見て、別れの言葉を考えた。何にしよう、と思う。初めての時は「はじめまして」だけでいいのに、こと別れとなると古今東西さまざまな言葉があって困ってしまう。「さようなら」とだけ言えばいいのかもしれないけれど、「さようなら」にもいろんなさようならがある。スティーブンが顎に指をあてて考え始めると、レオナルドが「僕は別れたいとかそういう話をしてるわけじゃないんです」と言った。これにはスティーブンも目を見開いてしまう。

「だってスティーブンさんおんなじこと繰り返すんでしょう?僕以外で」

そうだった。スティーブンはそういう男だ。レオナルドはよくわかっている。スティーブンは今度こそ本当にどうしたものかな、という顔になった。これはいつもとは違うパターンだ。スティーブンは別段、レオナルドのことを嫌ってはいない。特別に好ましいとも思っていない。やや好ましい、この表現が一番しっくりくる。付き合ってみてからそれなりに時間が経つけれど、その評価はあまり変わらなかった。身体を重ねてみても、唇を重ねてみても、そうだった。スティーブンはレオナルドのことを決して好きにはならなかった。レオナルドにしたって、たぶんそうだと、スティーブンは思っている。だからやりやすい。恋人はいないよりいたほうがいいし、それは面倒くさくない方がいい。面倒な恋人はいないよりずっとたちが悪い。その点レオナルドは優秀だった。スティーブンを求めなさすぎることも、求めすぎることもなく、ただ淡々としてスティーブンのこの遊戯に付き合ってくれている。ただ、少しだけ頭が良かった。スコアでは表せない方の頭の良さがある。人をよく観察しているのかもしれない。その眼には人の感情すらうつっているのだろうか、とスティーブンは思った。

「少年はどうしたい」
「どうも。このままでいいです」
「でも愛の言葉は口にするなと」
「それが嘘である限り」
「そう、それが嘘であるかぎり。少年は?」
「僕も言いません。それが嘘であるかぎり」
「オーケー、わかった。このままでいよう」

スティーブンは奇妙な関係だ、とはじめて思った。この関係は極めて特異だ。この会話できっと「さよなら」の言葉が決定してしまったような気がした。いつかスティーブンはその言葉を言う時がくるのだろうか。いつかレオナルドはその言葉を言う時がくるのだろうか。わからないな、とスティーブンは思った。言わなければいいだけの話だ、とも思った。そう思った自分の背後から、さよならの足音が聞こえているのにも気づかずに。


END


Twitterで「4RTされたらスティレオの『愛してる、とか言うなよ』から始まるBL小説を書きます!」という診断メーカーの結果が出たので書きました。

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